今シーズンかぎりでリヴァプールから退くクロップ監督。彼と過ごした時間は実に濃密だった

いつの日か、別れは必ずやって来る──。

永遠の関係など存在しない。筆者と同世代は長嶋茂雄の引退に絶望した。サー・アレックス・ファーガソンの退陣に気持ちの整理がなかなかつかず、高倉健や石原裕次郎が天に召されたときには、昭和の終わりに心が揺らいだ。

1月26日、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督が、今シーズンかぎりで退任すると公言した。

「エネルギーが尽きかけている。そろそろガソリンを入れ直さないとね。少なくとも一年は休養するよ」

退任の理由を明かしたクロップ監督はどことなくスッキリしており、それでいて哀しそうにも映った。およそ9年もリヴァプールの監督を務めていれば、さまざまな感情が交錯する。プレッシャーから解放される安堵感、ハイレヴェルの闘いが味わえなくなる虚無感……。

本人ですら戸惑っているのだから、周囲が混乱するのも無理はない。

「クロップ監督がいなくなるなんて寂しいな。プレミアリーグにとって大きすぎる損失だ」

マンチェスター・ユナイテッドの闘将として一世を風靡し、現在は辛口のコメントが物議をかもすロイ・キーンですら、ショックを隠していない。

退任発表後、初の公式戦となったノリッジ（チャンピオンシップ＝実質2部）とのFAカップ4回戦は、本拠アンフィールドがエモーショナルなムードに包まれた。サポーターが浪々と奏でる『YOU’LL NEVER WALK ALONE』は心からの感謝にあふれ、いつも以上の情愛が感じられた。

大好きで大好きでたまらないボスとの別れはつらいけれど、いくつもの素敵な想い出ができた。ユナイテッドやチェルシー、シティの背中ばかり見ていた過去は笑い話になり、チャンピオンズリーグ、プレミアリーグ、クラブ・ワールドカップ、FAカップ、リーグカップを制した。ひとえにボスのおかげである。

泣いてばかりもいられない。残されたクロップ監督との時間をできるかぎり楽しむためにも、『YOU’LL NEVER WALK ALONE』に気持ちがこもったのだ。