ベルディ最後の傑作オペラ「ファルスタッフ」で「文明の集大成を見せる」…演出家・岩田達宗が語る
神戸文化ホール(神戸市中央区)が昨年開館50周年を迎えたことを記念して、21日、地元の神戸市室内管弦楽団と同市混声合唱団が、ベルディの最後の傑作オペラ「ファルスタッフ」(全3幕)を上演する。演出を手がける同市出身で日本を代表するオペラ演出家、岩田達宗に目指すものを尋ねた。(青木さやか) 【写真】岩田(右)の指導でファルスタッフの稽古に励む出演者ら
舞台は英国・ウィンザー。酒だるのような腹の老騎士・ファルスタッフが、2人の人妻に同じ文面のラブレターを送ったのを機に、悪行の数々に怒っていた人々から、逆襲されるという物語だ。
「オテロ」を最後に引退し、農業などにいそしんでいた79歳のベルディが、依頼ではなく自らの意志で作った作品で、敬愛するシェークスピアの戯曲を基に、実力と経験の全てが注ぎ込まれている。宇宙を感じさせるような重唱で「この世は全て冗談」などと歌い上げる第3幕の大団円は、演劇やオペラ、人生への賛歌でもある。
開館の節目にオペラを選んだ理由を「華やかさや派手さのある作品ならほかにもあるが、そうじゃないな、と。文明の集大成のような作品を見せるべきだと思った」と真剣な面持ちで語る。
作品選定の過程で、オペラそのものの歴史にも思いをはせた。オペラの原点は古代ギリシャの演劇とされる。「地中海で戦争が相次ぎ、島が沈むほどの災害もあった時代。異なる言語、国境の人間が集まって『新しい時代につながる祭りを』との思いで作られたのが演劇」と説明する。
感染症や戦乱で欧州が混乱した400年前、イタリア人が「オペラ」としてギリシャ演劇を復興させた点にも触れ、「今、まさに同じような時代に生きている。コロナ禍を経て、我々は 脆弱ぜいじゃく な存在だと思い知った。今こそ、オペラをやる意義を感じる」と話す。
神戸市で過ごした高校時代、映画館に通いつめた。東京外国語大に進学後、太地喜和子らの優れた芸を見たことで演劇の世界へ。次第に、生の声の力で物語を紡ぐオペラの世界に魅了されていった。楽譜や書かれた言葉に忠実な作品作り、歌手の育成に定評がある。