高橋努、『虎に翼』で体現した“記者魂” 寅子の人生の節目ごとに側にいた竹中の生き様
寅子(伊藤沙莉)にとってやけに縁深い人物が再登場した『虎に翼』(NHK総合)第23週。いよいよ始まった「原爆裁判」の口頭弁論の傍聴席に一人姿を現したのは、記者の竹中次郎(高橋努)だった。杖をつきながら足取りは頼りないものの、寅子に向かって片手を挙げニンマリと笑って挨拶するさまは「お手並拝見」とでも言いたげで、いかにも彼らしい。竹中のどこかニヒルながらも記者魂が絶えていない様子に安堵した視聴者も少なくないだろう。 【写真】天狗になった寅子(伊藤沙莉)を見つめる竹中(高橋努) 思えば、竹中は寅子の人生の節目ごとに気づけば側にいた。2人の出会いは寅子の明律大女子部法科の入学式。当時はあからさまに寅子の話を興味なさそうに聞き流し、皮肉めいた好意的でない記事を掲載する“嫌なやつ”という印象だった。 しかし、それは記者という職業柄、人の希望や前向きな動機を逆手にとって利用したり搾取しようとする裏側が常に透けて見えてしまったり、「出る杭打たれる」を散々目にしてきたからかもしれない。彼の態度はある意味記者として慎重な態度で、取材相手との適切な距離感を心掛けようとする意識がどこかにあったのかもしれない。 寅子の父・直言(岡部たかし)が贈収賄の容疑で逮捕された「共亜事件」では、まさにそんな竹中の記者としての嗅覚や経験値が遺憾無く発揮され、結果寅子を守ることになった。事件の黒幕の手先に襲われた寅子を華麗に背負い投げで撃退しただけでなく、事件の真相を伝え、道標のような役割を知らず知らずのうちに担っていた。直言の無罪が確定した際に、心底嬉しそうだった竹中の姿が思い出される。 人や物事の裏側ばかり見てきた竹中にとって常に真っ向勝負で損得勘定なしの寅子は危なっかしくもあるものの、取材対象として全く飽きず、その骨太さを徐々に認めざるを得ないところがあったのだろう。「やれやれ、世話のかかる奴だ」というように寅子を眼差しながらも、そこには興味だけでなく尊敬の眼差しも含まれていたように思える。合格祝賀会での寅子の怒りの滲む演説の真意をきちんと汲み取り、唯一好意的な記事にしたのも彼だった。