金メダルを手に笑顔を見せる永瀬貴規＝シャンドマルス・アリーナ（撮影・吉澤敬太）

　「パリ五輪・柔道男子８１キロ級・決勝」（３１日、シャンドマルス・アリーナ） 　柔道男子８１キロ級で、東京五輪金メダルの永瀬貴規（３０）＝旭化成＝が優勝した。同階級での２連覇は史上初の快挙。また、３０歳９カ月での金メダルは柔道の日本男子最年長記録となったが、「休まない男」永瀬の強さについて恩師らが語った。 【写真】永瀬まさかの階段踏み外し　海外の女性テレビクルーも思わず笑っちゃった 　「頼むから休んでくれ」。日本男子代表の鈴木桂治監督は、永瀬の強さについて半ばあきれ気味に明かす。「本当に練習の虫。休めと言っても休まないのが永瀬」。今年３月、３年ぶりに国際大会を制したトルコ遠征から帰国した空港で、永瀬に翌日の予定を聞いたところ「とりあえず道場に行きます」と答えたという。強化のトップとして休むよう促したが、当日ＬＩＮＥで「今、何してる？」と念押しのメッセージを送ったところ、「道場にいます」と返答があり、頭をかいた。 　３年前の夏に金メダルを獲得した永瀬は、夢舞台の２、３週間後には練習拠点の筑波大の柔道場に姿を現した。「１２０％パリを目指すという気持ちではなかったが、もっと強くなりたいので」。心身を極限まですり減らした戦いの後は長期休養を取る選手も多い中、顔色一つ変えず練習する姿は、周囲を驚かせた。 　「驚いたけど、永瀬のことだからすぐ道場に来るんじゃないかと、みんなどこかで思っていました」。筑波大の岡田弘隆監督（５７）は笑う。三十路を目前に控え、進退がよぎってもおかしくない中、年内には五輪連覇に向けて走り出していた。「早い段階でパリを目指す決意をしていた。五輪を２度経験し、金メダルも取った。年齢的にも３０歳を過ぎて、もう一度金メダルを目指すと決めたことがすごい」 　永瀬といえど、年齢的な肉体の衰えはあらがえない。在学時に筑波大の監督として指導していた現日本女子の増地克之監督は「最近は稽古で学生に投げられる姿を見るようになった。以前にはなかったが」と、心配そうに明かしていた。岡田氏も「東京五輪以降、練習で投げられる回数は明らかに増えた」と口をそろえつつ、「それでも、連覇するにはこれだけやるんだという姿は最高の手本になっている」と目を細めていた。 　強豪が多く、入れ替わりが激しいこの階級で戦う難しさについて、自身も中量級で戦っていた岡田氏は「軽量級のスピードと重量級のパワーを両方持ち合わせ、技術的にも何でもできる選手がたくさんいる」と語る。「この階級で連覇するということは最強で、究極のオールラウンダーだということ」。前人未到の大偉業だが、涼しい顔で事もなげにやってのけたところも、実に永瀬すぎた。