杉本博司さん手がける小田原「江之浦測候所」が9日オープン 構想から10年
海沿いに走るJR東海道線の根府川駅を降り、山側をバスで上ること約10分。みかん畑だった1万1,500坪の広大な敷地を買い取り、うち3,000坪を開発して建設が進められてきた複合アート施設「江之浦測候所」が、10月9日に一般公開をスタートする。 熱海から小田原へ向かう列車から見た江之浦の水平線が、幼少期の原風景だったという現代美術家の杉本博司さん。起伏に富んだ敷地内には、代表作「海景シリーズ」の原点にもなったその景観と、杉本さんのコレクションを中心とした古今東西の芸術作品を鑑賞するためのギャラリーや野外舞台、茶室、庭園などが配されている。
各建築物には、日本の伝統工法を将来に伝えるため、各時代の建築様式と工法の特徴を取り入れた。鎌倉・明月院の正門として室町時代に建てられた「明月門」や、日本国憲法草案の一部が書かれた場所とされる箱根の旅館「奈良屋」の別邸の門といった、解体保存され寄贈された古建築も再建されている。
中でもその造りと眺めに目を見張るのが、水面に浮かぶように設置された「光学硝子舞台」と、長さ100メートルにもおよぶ「夏至光遥拝ギャラリー」。櫓の懸造りの上に光学ガラスを敷き詰めた舞台は、冬至の朝は光が差し込み輝くという。舞台の山側に置いた190席の客席は、古代ローマの円形劇場遺跡を実測して再現。舞台と平行して崖の上からギャラリーの下を貫く70メートルの「冬至光遥拝隧道(ずいどう)」では、冬至の朝に陽光が直進し、庭に置かれた巨石を照らす。大谷石が構造壁を覆うギャラリーでは、開館記念展として杉本さんの「海景」を展示。対面のガラス窓は、柱の支え無しに37枚のガラス板が自立する。
周辺は耕作放棄地が多いという江之浦。杉本さんは建設にあたって苦労した点に農地の取得交渉を挙げ、「先祖代々の土地を手放すことは容易でない。残りの広大な敷地にも、アート作品を点々と作っていきたい」と話した。
入館は完全予約制。小田原文化財団のウェブサイトで予約を受け付けている。料金は3,000円(中学生未満入館不可)。 (齊藤真菜)