地方では「老老介護」状態のライドシェア、拙速な「解禁」への拭えぬ違和感 「導入ありき」の議論は「順序が逆」
■ 高齢者を高齢ドライバーが運ぶ「老老介護」状態 国土交通省が規制改革推進会議/地域産業活性化ワーキング・グループに提出した資料によれば、交通空白有償運送は全国で670団体・4304車両、福祉有償運送は2470団体・1万4456車両ある。 これまで全国各地で運用されてきた日本独自のライドシェアシステムの多くは、地域社会がこれからも持続し、人々の笑顔を絶やしたくないという思いから、住民がボランティア精神でドライバーを勤めている場合が多い。そうした地域活動の必要性について、市町村は「地域住民が自ら守る地域交通の公共性」について地元に説明し、実施に向けて粘り強く交渉することで運用が実現しているケースが少なくない。 そこにいきなり、「ライドシェア一部解禁」として事業性を重視した「自家用車活用事業」が始まったのだ。さらに、「ライドシェア全面解禁」となれば、特に「自家用有償旅客運送」を実施してきた地域住民に対して、市町村はどのような説明をするのか? ただし、次世代のライドシェア導入に関する議論は、地域社会に対してネガティブな印象だけだとは言い切れない面もある。 特に、「自家用有償旅客運送」については、ドライバーは60代から70代の男性が多く、利用者も高齢者という、いわば老老介護のような形になっている場合が少なくない。そして、ドライバーの成り手を持続的に確保する仕組みが確立されていない場合が多いからだ。
■ ライドシェア解禁議論が左右する地域の未来 いずれにしても、「自家用車活用事業」における「ライドシェア一部解禁」や、いわゆる「ライドシェア新法」に伴う「ライドシェア全面解禁」を踏まえて、地域住民と日々直接対応する市町村が、地域公共交通のリ・デザインの観点で今後さらに真剣に地域住民への説明に取り組むことになるだろう。 地域公共交通に直接関係する部署以外を含めた全職員が、「日本が今、ライドシェア全面解禁の議論を本格化させなければならないような大きな社会変革期に直面していること」を自分ごととして捉え、部署間の垣根を越えた情報共有を進めるべきだ。 その上で、地域の特性に合わせて「ライドシェアありき」ではなく、地域の未来について市町村は地域住民や地域事業者と持続的な対話を進めるべきである。 結果的に、規制改革推進会議におけるライドシェア全面解禁の議論は、地域社会の未来を考えるためのバロメーターになっていると言えそうだ。 桃田 健史(ももた・けんじ) 日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。 ◎Wikipedia
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