イチロー“引退興行”の誤解
ネットが大炎上したお笑いタレント、ダンカンのブログ発言(後で撤回)に代表されるように一部のファンの間では感動的なマリナーズ、イチロー(45)の東京ドームでの“引き際”がマリナーズのビジネス優先の“引退興行”だったのではないか、という批判的な疑念がある。だが、答えはノー。大きな誤解だ。 そもそも今回の東京ドームでのアスレチックス対マリナーズの2試合は、マリナーズではなくアスレチックスの本拠地ゲームだった。MLBは、今季、世界への拡大戦略のために日本、メキシコ、英国の3か所で公式戦を開催するが、その戦略に沿って読売新聞社が、アスレチックスから、本来はオークランドで行われる興行権を買ったのである。アスレチックスは、本拠地では、お客さんが入らず興行に苦戦しているため、平均観客動員数以上の興行収入想定の値段で2試合分の興行を買ってくれるのならば、渡りに船なのだ。 過去に日本でのメジャー公式戦は2000年のメッツ対カブスを皮切りに4度行われているが、アスレチックスは2008年、2012年、そして今回と3度、日本で公式戦を行っているのは、そういう理由だ。 2008年はアスレチックス対レッドソックスで松坂大輔が先発した。前回の2012年もアスレチックス対マリナーズ。3番を任されていたイチローは開幕戦で5打数4安打と大爆発している。 ただ興行権の売買に関しては、リーグビジネスが徹底されているメジャーでは、MLBを通じて行われることになっていて、今回、読売新聞社は、プレシーズンマッチを含めて6試合分の興行権料としてMLBに対し10億円以上を支払ったとされている。 さらに専用機での移動費用、滞在費など15日に来日して21日深夜に離日するまでの一切の経費を読売新聞社が負担した。もちろん、東京ドームの使用料もだ。その代わりカジノ法案成立を受けて日本進出を目論むMGMリゾーツがメインスポンサーとなったスポンサー料、チケット収入、国内の放映料、関連グッズの一部ロイヤリティのすべてが主催者に入る。それらを合わせると、今回は、10億円以上で興行権を買ったが、連日の“イチロー祭り”で十分に黒字が出たと推測されている。 少し話が長くなったが、その読売新聞社から支払われた金額をMLBがアスレチックス、マリナーズに配分するが、基本アスレチックスの興行なので、ほとんどはアスレチックスへ行く。マリナーズには、海外でプレーする特別手当として選手一人につき推定約7万ドル(約770万円)が支払われたとされているが、チームへの補填金を含めて日本で試合を行うことへの金銭的なメリットはそうはない。 マリナーズブランドを高めるなど、ビジネス面でのプラス効果は計り知れないが、「イチローの引退興行で金儲けをした」という見解は誤解なのである。むしろ、アスレチックスの方が“おいしかった”わけである。もちろん興行主の読売新聞社なども。