「全部、私の責任だから」母親はなぜ子どもたちを置いて家を出たのか 拘置所で語った6度の結婚と家族への思い【大津女児虐待死事件(中)】
その頃、母親には別の交際相手がいた。その男性との間に生まれたのが、長男による暴行で亡くなった清水実愛(みあい)ちゃんだ。だが彼女が生まれてまもなく、今度は交際相手が窃盗絡みの事件で摘発される。 「その時、私も警察の事情聴取を受けたのよ。共犯じゃないかってことで。それで、これはまた逮捕されそうだなと思って、生後7~8カ月だった娘を施設に預けることにしたの」。その後、母親はこの件で実刑判決を受けて服役し、実愛ちゃんは約6年間、大阪市内の児童養護施設で過ごすことになる。 母親は女児の後に第4子となる三男も出産しているが、まもなく施設に預けた。その三男の実父が後に大津市内で母親と居を構えた男性だ。長男や女児にとっては養父に当たるが、この男性もまた、兄妹との同居が始まってすぐに覚醒剤取締法違反容疑で逮捕されている。結婚と離婚。子どもの出産と親たちの逮捕。その繰り返しで、家族関係は極めて複雑になった。
「記者さんには分からないかもしれないけど、薬物が日常的に手に入るような環境もあるのよ」「普通の家庭を持ちたいってずっと思っていたのに、結婚や離婚を繰り返してばかり。結婚はもう6度目。ほんとバカよね。ねぇ、そうじゃない?」 過去を振り返る時、彼女はたびたび自嘲的な口調でそう語り、アクリル板を挟んで向き合う私や同席する刑務官に同意を求めた。上目がちに少し寂しそうな表情を浮かべ、反応を探るように顔をのぞき込んでくる。こちらが厳しい表情になると「でもね、私ね」と甘い声音で言葉を継ぐ。彼女の話し方には、そうやって相手の共感や同情を求める癖があった。 ▽「私が内緒で受け入れた」児相が反対した兄の同居 2019年ごろ、約2年半の服役を経て出所した母親は実愛ちゃんの家庭引き取りに向け、大阪市の児童相談所と準備を始めた。本格的な同居が始まるのは2021年3月だが、直前になって、今度は京都府の児相から母親に手紙が届いた。用件は、祖母の家を出て京都府内の里親家庭で暮らしていた長男の処遇に関する連絡だった。