天才探していた…ギフテッドクラスの失敗を経て「凸凹の凸を伸ばす教育」へ、翔和学園の今
多彩な発表はコーヒーの淹れ方から「コラッツ予想」まで
東京都・中野区にあるNPO法人翔和学園には、発達障害やギフテッドなど、さまざまな特性のある若者が通っている。過去にはギフテッドとされる子どもたちの突出したIQだけが注目され、言葉の不正確なイメージが独り歩きしたこともあった。翔和学園でも2015年に「ギフテッド・アカデミッククラス」を立ち上げたが、現在はその取り組みを「失敗だった」と明言している。過去を教訓に、同学園では今、どんな教育がなされているのだろうか。 【写真を見る】翔和学園は能力の凸凹がある子どもの「凸」に注目し、凸を伸ばす教育を目指している 2024年3月、東京都港区の会場で、特別支援教育に注力するNPO法人翔和学園の卒業・修了イベントが開催された。ホールには生徒の絵や工作も展示され、作者本人による解説を聞くこともできる。観客席は詰めかけた保護者などでほぼ満席となっており、活気あふれる中、生徒たちの多彩なステージ発表が行われた。 ある生徒は、木工制作に打ち込む過程を動画にまとめた。彼の作る大きな木製の城は会場にも展示された。プログラミングしながらロケットの制作を続ける生徒もまた、その実物をステージで披露した。ハンバーグの作り方やコーヒーの淹れ方を研究した動画もあれば、自宅から横浜への日帰り旅行を収めた動画も。アニメソングを歌って踊る生徒には、会場から手拍子が送られた。 あるいは数論の未解決問題である「コラッツ予想」に取り組んだ難解なスライドを示し、会場を完全に置き去りにする生徒もいた。内容はあまりに多岐にわたるが、それは生徒一人ひとりが、純粋に自分の好きなことをしているからにほかならない。 印象的だったのは、発表の多くが「途中経過」であったことだ。おいしいコーヒーの淹れ方はこれからも研究を深める課題であり、コラッツ予想は未解明で、城もロケットも完成していなかった。通常の学校で成績をつけようとすれば、これらはそもそも評価の対象にすらならないかもしれない。だがこの日この会場にいたすべての人は、この途中経過から、生徒たちの確実な成長を感じ取ることができただろう。 印象に残ったことはもう一つあった。それは進行中の課題に取り組む多くの生徒が、ごく自然に他者のサポートを求めたことだ。城を作る生徒も、コラッツ予想に向かう生徒も「手伝ってくれる人を募集しています」「一緒にやってくれる人がいたらぜひ」などといった言葉で発表を締めくくった。 翔和学園に通う若者は「発達障害やそれに類似する苦手さ」を持ち、複雑な人間関係の構築や社会参加へのハードルがあるケースが多い。だが卒業イベントに臨む彼らは、やりたいことをやる集中力だけでなく、周囲との関係を自分の力に変えることも身につけているようだった。