焦点:「トランプ2.0」に備える米株市場、関税・減税が鍵 ボラティリティーに警戒も
Lewis Krauskopf [6日 ロイター] - 米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことを受け、米株式市場では減税や規制緩和に期待が高まっている。同時に、株式市場や為替相場などあらゆる話題に言及するトランプ氏の姿勢にも身構えている。 トランプ氏は選挙戦で関税と減税を柱に支持を訴えた。金融、暗号資産(仮想通貨)業界などの規制緩和も重要になるとみられる。 DWSグループの米州最高投資責任者デービッド・ビアンコ氏は、市場がトランプ政権について「インフレ加速や金利上昇を伴うとしても、成長を促すと考えている」と述べた。 政治情勢が市場を動かすことはあるが、通常はマクロ経済や企業業績の健全性、世界的なイベントに比べて二の次になりがちだと投資家は指摘する。 例えば、1期目のトランプ政権下でS&P総合500種は70%近く上昇した。同氏の関税政策でボラティリティーが生じたものの、ハイテク株が急騰したためだ。一方、同政権は化石燃料開発を支持する立場だったが、コロナ禍で世界経済がまひしたことを受けてエネルギーセクターは大きく下落した。 <歴史は指針にならずか> 2016年大統領選でトランプ氏が勝利した際は、低迷気味の米経済を減税などの政策が押し上げるとの期待から「リフレトレード」が広がり、銅先物や建設株などさまざまな資産に買いが入った。 だが、現在の経済情勢は異なり、投資家の間では今後数カ月の株式や債券、ドルの動向について16年の経験は正確な指針にならないとの見方が出ている。 今年第3・四半期の米国内総生産(GDP)が年率換算で前期比2.8%増だったのに対し、16年は2%を下回っていた。何カ月にも及ぶ金融引き締めを受けインフレは22年の高水準から鈍化したものの、関税や減税によって再び物価高が進むとの懸念もある。16年は対照的に、インフレや成長の鈍さが米連邦準備理事会(FRB)の懸念事項だった。 インフレ再燃の兆しが出れば、緩和に乗り出したばかりのFRBが政策見通しを再考する可能性もある。 さらに、今年の選挙戦終盤に賭け市場でトランプ氏勝利を見込む動きが見られたのに対し、16年の同氏勝利は「全面的なサプライズで、市場がポジティブに反応したのもサプライズだった」とJPモルガンのストラテジストは指摘する。 <関税・税制改革が鍵に> トランプ氏は全ての輸入品に10%、中国からの輸入品に60%の追加関税を課すと公約しており、関税導入案が今後数カ月の投資家の動きに大きく影響する可能性がある。 ドイツ銀行の分析によると、関税が導入されなければ、トランプ氏勝利は米GDPを約0.5%ポイント押し上げる。一方、関税が導入された場合は0.25%ポイント押し下げる。 ナティクシス・インベストメント・マネジャーズのポートフォリオストラテジスト、ギャレット・メルソン氏は「トランプ氏がどの程度積極的に関税を導入するかは依然不透明だ。関税は大統領令で導入できるため、議会の構成にかかわらず関心事になる」と述べた。 トランプ氏は国内で製品を製造する企業の法人税率を15%に引き下げるなどの税制改革も目指している。こうした減税は企業の業績や株式市場の地合いを支える。 ゴールドマン・サックスの試算では、法人税率を15%に引き下げれば、S&P500企業の利益を約4%押し上げる。 同時に、広範な減税は公的債務拡大への懸念を強める恐れがある。米債券市場ではこのところ財政赤字を巡る懸念から国債が売られ、指標10年債利回りは6日の取引で一時4.479%と、7月以来の水準に上昇した。 これに加え、トランプ氏は市場に影響し得る幅広い話題について発言する傾向があり、1期目にはドルの強さや貿易、個々の企業の方針などについて頻繁にコメントし、実際に資産価格が動いたケースもある。 DWSのビアンコ氏は「ノイズとシグナルの区別が難しい多くのコミュニケーションがトランプ政権から発せられるという考えに市場はやや神経質になっている」と語った。