「受け身じゃ世界は無理なんや」“モデルジャンパー”から国内3年間無敗の女王に…走幅跳・秦澄美鈴(28歳)が目指す「世界へのリベンジ」
「受け身じゃ世界は無理」感じた東京五輪
当時の心境を、以前の取材で秦はこう語っている。 「その時は五輪に出場できるポイントの目安も分からなくて、自分の中で楽観的に捉えていた面もありました。結局、代表入りを逃して『受け身じゃ世界は無理なんや』って思ったんです。出られたかもしれない舞台を取りこぼしてしまったことに、後悔と責任を感じました」 もちろん、どちらも選手の戦略次第なのだが、ランキング入りを目指して試合を重ねるのと、標準突破を狙って挑んでいくのでは、目標レベルや意識に差が生まれることは否めないだろう。シーズンが進むにつれて各国の選手たちのポイントも増えていき、安全圏だと思っていたのに、最終的に弾き出されることも想定される。 秦は東京五輪シーズンの経験を踏まえて、ランキングを意識するのではなく、より確実な標準記録を突破しての出場にフォーカスするようになった。 2022年のオレゴン世界選手権にむけては、標準記録(6m82cm)の突破を見据え、海外遠征を皮切りに春先から着実に記録を残していった。結果的に標準記録には届かなかったものの、ワールドランキングにより、初の世界大会の切符をつかむ。2023年、7月のアジア選手権で6m97cm(+0.5)のビッグジャンプを披露。17年ぶりに日本記録を塗り替えるとともに、ブダペスト世界選手権、パリ五輪の参加標準を一気に突破した。 そして東京から3年後の2024年、標準記録をクリアした状態で臨んだ日本選手権で優勝し、初の五輪行きのチケットをつかみ取った。
モデルジャンパー→跳躍界の第一人者に
思えばオレゴンで初の代表をつかんだ時は、当時の所属先のシバタ工業でレインブーツのイメージモデルを務めた経験から、メディアで「モデルジャンパー」との肩書きをつけられることも少なくなかった。 以前の取材ではその葛藤も明かしていたが、今や肩書きなど必要なく、名実ともに女子跳躍界の第一人者。それも彼女が世界で戦うための記録を出すことをリアルに意識し、着実にレベルアップしてきたゆえだろう。 暫定のワールドランキングは現在6番目。「まずは自分の跳躍に集中すること」と話すように、思い描く跳躍ができれば、決勝進出やその先の入賞・メダルも見えてくる。 過去2回の世界選手権はいずれも予選敗退に終わり、世界の舞台で思うような跳躍をすることの難しさを体感。その経験を糧に海外でレベルの高い試合にも挑戦を重ねた。初の五輪はこれまでの過程の「答え合わせ」でもあり、冷静に足元を見つめながら臨むつもりだ。 「今はまだ『こんなところで笑っていられないぞ』という気持ちがあるので、本当に納得できるパッとする跳躍をして、心の底から笑えるようなオリンピックにしたいと思います」 最後は笑顔で取材エリアを後にした秦。1カ月後、パリのフィールドで彼女らしく、伸びやかに宙を舞う姿を楽しみに待ちたい。
(「オリンピックPRESS」荘司結有 = 文)
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