【#佐藤優のシン世界地図探索㊹】もし"トラ&プー"のシン世界が生まれたら...
佐藤 まず、「ウクライナはアメリカに関係ない、だから手を出さない。その代わり、ロシアがイランにテコ入れして、イスラエルを潰したら許さないぞ」ということです。あるいは、ニカラグア、ベネズエラに手を突っ込んだりしたら、これも許しません。そういう棲み分けです。 ――とてもわかりやすいじゃないですか。 佐藤 そう、わかりやすいんですよ。だから、トランプの方が世界は安定します。 ――トランプがイスラエルをそこまで支持するのは、やはり金融の話ですか? 佐藤 それは違います。信念の問題です。トランプは、プレスビテリアン(長老派)です。つまりトランプ本人が、イスラエルを守らないといけないと本気で思っているためです。 ――そりゃまたすごい。 佐藤 アメリカの歴代大統領でこの長老派はウッドロー・ウィルソンとアイゼンハワー、そしてトランプだけです。 ――すごいメンツ!! 佐藤 彼らは神様に選ばれた特別な使命があると思っているから、すごいことをやります。ウィルソンは国際連盟を作ったり、アイゼンハワーは第2次世界大戦で「史上最大の作戦」と呼ばれた「ノルマンディー上陸作戦」を指揮しました。 ――トラさんは何をするのですか? 佐藤 トランプは以前、大統領だった際に、まず米国大使館をエルサレムに移動しましたよね。 ――はい。 佐藤 それから、ゴラン高原をイスラエルの領土と認めました。これも今まで誰もやらなかったことです。そして、トランプが間に立つことによって、アラブ首長国連邦、モロッコ、スーダン、さらにバーレーンと外交関係を樹立させました。 ――それらの国は、全てイスラエルにとっては重要な国ばかり...。 佐藤 だから、トランプにとってイスラエルがいかに大切かということです。 ――たしかに。ではトラさんは、北朝鮮を手懐(てなず)けられますかね?
佐藤 金正恩体制を認めて、それを外から倒すことはしないと保障すれば、北はアメリカが怖くなくなります。民主主義や基本的人権といった普遍的価値を言わなくなると、北にとってアメリカは脅威ではないのです。 ただし、永遠にトランプ政権は続きません。いずれまたバイデンやクリントンが出てきて、北を潰すような動きが出てきます。その時に備えて、北は核兵器とミサイルは手放さないでしょう。 しかし、能力と意志で考えれば、トランプが政権を握るアメリカに北を倒す意志はありません。北を壊す能力はあっても脅威ではなくなるので、米朝関係は改善します。 ――納得です。 佐藤 ちなみに、岸田さんは去年の9月19日の国連演説で価値観外交と決別しています。『世界は、気候変動、感染症、法の支配への挑戦など、複雑で複合的な課題に直面しています。各国の協力が、かつてなく重要となっている今、イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できません。』(首相官邸ホームページより引用 kantei.go.jp)と発言しているのです。 これは価値観外交はやらないという意味です。そして、この演説に「民主主義」という言葉がひとつもないのは意図的です。 ――こんなに偉大な深海魚の岸田首相は、なぜ評価が低いのでしようか? 佐藤 素人には外交はわかりませんからね。 ――ではまあ、トラプーの時代は短期的にはよさそうだということですね。 佐藤 良い時代にはなりますが、ひとつ心配しないといけないのは、基軸通貨としてGドルを維持できるかどうかですね。 石油取引に使うペトロダラーがどうなるかが、非常に大きな影響を与えます。サウジアラビアが中国とロシアの石油取引において、自国通貨での取引を始めました。 そのため、石油決済で使っていたドルがだぶついてしまいます。しかし、ドルが基軸通貨の地位から抜け落ちると、皆、資産を失うことになります。 ――それは皆、損をするから嫌だと...。 佐藤 そういう事情があります。 それから、アジアで留意するべきはインドネシアです。今、人口はおよそ2億8000万人ですが、合計特殊出生率が2.19(2020年)なので、2050年に3億2400万人になります。 ――インドネシアは自国から外の領域に出よう考えているのですか? 佐藤 そういう考えを持っています。去年から輸出用に使っていた天然ガスプラントを輸入用に使っています。産業の爆発が起きているのです。 ――すると、インドネシアが外に出ようとしているならば、南シナ海、マラッカ海峡、インド洋で中国とぶつかりませんか? 佐藤 そうです。だから、中国は格安で兵器を渡しています。そして、そのメンテナンスで儲けるという算段です。兵器を中国仕様にして、さらにメンテナンスも中国となると、インドネシアは中国と戦争はできると思いますか? ――できません。 佐藤 そしてそれは、日本にとって都合が悪い状況です。だから今、日本は防衛装備移転三原則の運用を緩めようとしているということです。日本政府はそれなりの戦略を持っています。 アメリカは価値観とか理屈をつけて、東南アジアにはきちんとした兵器を流していません。その隙間を埋めているのは中国なんです。 ――ヤバいですね。 佐藤 だから、インドネシアの兵器装備品を日本仕様にする。するとメンテナンスは日本となります。 ――それならインドネシアは日本と戦争できなくなる。 佐藤 地政学的には海洋国家は海洋国家とぶつかりますからね。インドネシアが巨大化したら、日本とぶつかることも現実に考えられます。 ――それは何としてでも避けなければなりません。 佐藤 日本の移民は、これからの人口増加を考えると、インドネシア、フィリピン、マレーシアとなります。だから、対インドネシア戦略を今のうちに立てておかないと手遅れになるわけです。グローバルサウスの逆襲を考える場合、日本はインドネシアをまず視野に入れなければ対応できなくなります。 ――対日外交の橋渡し役をしてきたデヴィ夫人作戦part2でありますか? 佐藤 あのような形で解決できたのは、当時のインドネシアだからです。今は無理ですよ。 ――ちゃんと考えて行動しないと。 佐藤 そういうことです。 次回へ続く。次回の配信は2024年2月16日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生