チキンレースだった…順大新病院計画中止の内幕 「やめたいけれど、どちらが切り出すか…」 公募から10年、医師確保に疑心暗鬼 800床の大病院霧消、地元の期待むなしく さいたま市
埼玉県さいたま市の浦和美園地区に800床の新病院整備を計画していた順天堂大学が11月29日、県に計画中止届を提出し、関係者や地元住民の期待はむなしく霧散した。2014年の公募開始から10年の歳月が過ぎた計画は、病院の基本計画や医師の数を巡って暗中模索の折衝が続き、疑心暗鬼が広がることに。計画の推移を見守ってきた県議は「お互いにやめたいけれど、やめると言い出した方の責任になる。どちらが先に中止を切り出すかのチキンレースになっていた」と折衝末期に漂った雰囲気を述懐した。 【完成イメージと写真】大学キャンパスと新病院が緑豊かな環境に立地するはずだった【地図と現地の写真】新病院計画の位置。地下鉄7号線延伸が検討されている浦和美園地区、都市開発の課題も(さいたま市緑区) 埼玉県は賠償請求せず
県は医学部新設が原則認められない状況下で慢性的な医師不足を解消するため、県議会の協力を得ながら国に対して基準病床数の算定方法の見直しを求め、14年に基準病床数を1502床増やした。同年10月に医師確保困難地域への積極的な派遣協力などを条件に大学病院の公募を開始し、翌年3月に同大学の計画を採用。1502床のうち800床を割り当てた。 ■タヌキ 大学側は昨年8月、予定していた医師300人の確保について、「法人の中だけでは不可能」として全国から公募する方針を示した。これに対し、県は「県内から引き抜きがあれば医師数を増やすという公募の目的に反し、医師派遣への影響についても懸念を抱かざるを得ない」と通知した。 医師派遣を巡っても、県から諮問を受けた県医療審議会で厳しい意見が相次いだ。2月に答申を大野元裕知事に手渡した金井忠男県医師会長は「建設と派遣を同時並行するのが公募要件で、新病院ではなく本院から派遣するのが当然という意見がある」と指摘した。
かねて整備計画の遅れを危惧していた小島信昭県議は計画中止の一報を受け、「手を挙げたにもかかわらず、不誠実で調子がよすぎる」と苦言を呈した。前出の県議の耳に残っているのは、悲劇を憂慮していた県元幹部の警告だ―。 「順天はタヌキだから。みんなだまされている」 ■確認書 18年に同大学の小川秀興理事長と上田清司前知事が締結した確認書では、県による財政支援は医師派遣を確認した後に予算の範囲内で行い、補助率は2分の1以内とされていた。支援となれば多額の税金が投入されるだけに、県議会だけでなく県医療審議会からも透明性のある議論を求める声が上がった。 県は一貫して「具体的な財政支援に関する要望は一度もなかった」としているが、一部で800億や1200億という数字が報じられていた。 大野知事は県議会12月定例会の一般質問で、確認書に関する質問に「22年度からは進捗(しんちょく)に関して行政報告も行ってきた」と答弁した。確認書の存在が議会で取り沙汰されるようになった時期と重なり、議会答弁で必要になるまでは大野知事への報告さえも、限定的だったのではないかとの見方もある。