【バイク短編小説Rider's Story】雨の日
オートバイと関わることで生まれる、せつなくも熱いドラマ バイク雑誌やウェブメディアなど様々な媒体でバイク小説を掲載する執筆家武田宗徳による、どこにでもいる一人のライダーの物語。 Webikeにて販売中の書籍・短編集より、その収録作の一部をWebikeプラスで掲載していく。 【画像】バイク短編小説Rider's Storyの写真をギャラリーで見る(4枚) 文/Webikeプラス 武田宗徳
雨の日
────────── 土砂降りの休日 ────────── しとしと、どころではなかった。たまの休日、それくらいだったらオートバイで出掛けている。ざあざあの土砂降りだ。昨日の天気予報である程度覚悟していたが、これほどとは思わなかった。あきらめた俺は、再び布団にもぐりこんだ。 昼前に起きだした俺は、歯を磨いて、のそのそと着替えた。水を一杯飲んでからアパートの外へ出た。雨は朝と同じように土砂降りだ。小走りで駐車場に向かい、車に乗り込む。ワイパーの速さを最大にして、車を発進させた。 いつもはツーリングの帰りに寄る馴染みの喫茶店に到着した。車から出ると、俺は水溜りを避けながら走って店に入った。 「こんにちはー」 「いらっしゃい!」 客はカウンターに一人いるだけだった。俺は後ろのテーブル席に腰掛けた。マスターが水を持ってきた。 「今日はさすがに車かい」 「そうですね、さすがに…」 俺は、苦笑いを浮かべながらそう答えると、メニューを見ずに本日のパスタランチを注文した。マスターはカウンターの奥へ戻っていった。 木枠のガラス窓から、俺は外を眺めた。雨の勢いは先ほどよりも増しているような気もする。今日はオートバイに乗れないかもしれない。 パスタとサラダとコーヒーのランチセットを食べて、マスターと雑談して、一時間ほど潰しただろうか。 マスターは山の方に放置してある単気筒のオートバイが気になっているようだった。 ────────── 退屈で時間を持て余す休日 ────────── 店を出て、あてもなく車を走らせた。土砂降りの中、国道を走る。雨の日は退屈だ。休日が雨になるたびに、思い知らされる。 ハンドルを左にきった。レコード店の駐車場に滑り込んだ。店内に入ってなんとなく見て回った。知らない邦楽の新人バンドをとりあえず視聴したりしてみる。どうせ暇だし、とそのアルバム全曲を視聴した。そして結局、俺はそのアルバムを買ってしまった。 次に向かったのは本屋だ。昨日、仕事帰りに寄ったばかりだったから、特に見たいものがあるわけではない。ぶらぶらと店内を歩く。雑誌やコミックを立ち読みしたりしたが、結局何も買わずに店を出た。何だかこういう風に時間を潰している自分が、嫌になる。 小腹が空いたので、コンビニへ向かった。缶コーヒーとおやつパンを買った。雨が降っているから、車の中で食べる。しかし、コンビニの駐車場で食べるのも味気ないので、俺は車を走らせた。広い場所で食べようと思った。俺は、市民球場の駐車場へ向かった。 ────────── 雨がやむ ────────── 広大な屋外駐車場には、あちこちまばらに車が停まっている。俺は、周りに車がいないところを見つけて停めた。先ほど買ったCDを車の中で流している。缶コーヒーをひとくち飲んでパンを食べた。思わず、ため息が出た。フロントガラス越しに外を見る。 ハッとした。 今まで勢いよくフロントガラスを叩いていた雨が見えない。俺はドアを開けて外に出た。 雨がやんでいる。空を見上げると、ところどころ青空がのぞいている。西の空が明るい。 俺は車に乗り込むと、急いでエンジンをかけ、駐車場を飛び出した。 自宅に戻るのだ。 今からならニ時間コースかな、と頭の中で計画を立てていた。所要時間別に俺が勝手につくったツーリングコースがあるのだ。それかもう少し先まで行って、夕飯を食べてきてもいい。 西の方に行こうか。東の方に行こうか。山の方か、海の方か。 俺は、ハンドルを握りながらこれからの予定を、頭の中で組み立てた。 これからオートバイに乗れる。 夕日が濡れた路面を照らして眩しい。俺はオートバイの待つガレージへと急いだ。 さらにアクセルを踏み込んだ。 <おわり> 出典:『バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ』収録作 著:武田宗徳 出版:オートバイブックス
武田宗徳