【今年こそ実践したい】頭のいい人だけがやっている本を「深く読む技術」
本や映画の感想を、SNSやブログで魅力的に発信する人がいる。そんな人に憧れて自分でも書いてみたものの、「面白かった」以上の言葉がうまく出てこないという経験がある人もいるのではないだろうか。どうすれば、作品を深く読み解けるのか。2023年と2024年のビジネス書年間ランキングで2年連続1位を獲得した『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者である安達裕哉氏と、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が話題の文芸評論家・三宅香帆氏が、「本を深く読みための技術」について語り合った。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部) 【この記事の画像を見る】 ● 本を深く読むための「作者読み」 三宅香帆(以下、三宅) 私は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本を書きましたが、安達さんは働いていても本を読める、読書好きと伺っています。安達さんが本を深く読むためにしていることや技術はありますか? 安達裕哉(以下、安達) 私が本を読むのは、前提として「SNSやブログに投稿したい」というモチベーションがあるからです。そして、その切り口が面白くないとアウトプットもつまらなくなってしまうので、作者の意図や本の背景をしっかり掴みたい。だから、その作者の本を片っ端から読みます。 三宅 わかります! 私もします、「作者読み」。 安達 おお! 三宅さんもされますか。たとえば、非常に多くの作品を書いたアガサ・クリスティという推理作家がいますが、私は全作品を読みました。すると、彼女の小説や他の作家の推理小説に関しても、トリックを大体推察できるようになります。それくらい読むと、今度はアガサ・クリスティ本人にも興味が湧いてくる。彼女自身に関する本も読み出すと、アガサ・クリスティのことが立体的に見えてくるんですよ。 私は、作品を“氷山の一角”だと思っているんです。海から飛び出て見えているのは一部分に過ぎない。だから、その本の内容だけを議論するのではなく、その作者が抱えているコンプレックスや怒りといったものが読み取れるようになるまで他の作品も読むと、世界が広がる最高の読書体験になると思っています。 三宅 すごくよくわかります! 私も批評や評論は、作者が無意識に書いてしまったことを読み取ることだと思っているんですよ。たとえば、アガサ・クリスティが意識的に仕掛けたトリックの奥底に、実は彼女が気づいていない部分がある、みたいな……。 安達 そうなんですよ。アガサ・クリスティの作品は、お金と女性絡みでしか殺人が起きない。そういうことがわかってきます。 ● 「ジャンル読み」でマトリックスを作り上げる 三宅 どうしたら作者の心の奥底に気づけるようになりますか? 安達 そのためには、2つアプローチがあると思っています。1つ目は先ほどの「氷山の下を意識する」こと。そもそも字面だけを追っていると「面白かった!」で終わってしまうのですが、作品の下に広がっている氷山の部分も読みたいと思わないと、なかなか到達できないと思っています。2つ目は、作者読みだけではなくて「ジャンル読み」という方法。私は去年から90冊くらいAIに関する本を読んでいます。すると、「次の世界はこうなるだろう」という切り口を持っている人、純粋にAIの使い方に着目して使い方を提案してくる人など、そのジャンルの中の立ち位置が見えてくるんです。 三宅 確かにテーマを持って本を読むと、読み方もまったく変わってきますよね。 安達 そうなんですよ。実は、このジャンル読みはコンサルティング会社で最初に習うんです。次に担当するお客様がホテル業界だったら、ホテルについて書いてある本をひとまず棚の端から端まで読みなさい、と。さらに、雑誌もバックナンバーまで読むよう指示される。そうすると「情報が非常に立体的に見えてくる」と教わりました。実際、著者読み、ジャンル読みは効果的だと感じています。 三宅 確かに、「これについて知りたい」と思って何冊も読むと、ただ漠然と読むよりも解像度が上がります。 安達 作者に関しても、「この人の本はこの位置付けだな」といったマトリックスができてきますよね。一段上のメタ情報にアクセスできるようになると「読書っていいな」と改めて実感します。 三宅 私もそう思います。やはり動画よりも読書のほうが、頭の中でマップが作りやすい。自分の読書マップができていく感じが楽しいですね。 ● 本に載っている参考文献を活用 安達 三宅さんは、深く読むためにしていることはありますか? 三宅 そうですね……。趣味の本にしても仕事の本にしても、その時に熱いテーマが自分の中にあって。それに関係しそうな本があればとりあえず買って、その中に参考文献を載っていれば、そこから次の本を選んで読んだりしています。「テーマ読み」をしている感じです。 安達 参考文献、いいですよね。 三宅 安達さんの『頭のいい人が話す前に考えていること』にも、検索の仕方が書かれていますよね。検索や参考文献をどのように使うかも、現代において大事な技術だと思っています。 安達 そうですね、著者が「これを参考にしている」という非常に貴重な情報を載せてくれているわけですから生かさないのはもったいない。私も「参考文献がついている本はいい本である」という思いを持っているので、自著にもつけたんですよ。 ● 「面白くない」と判断する力も必要 三宅 安達さんは仕事に関連する本もかなり読んでいるイメージですが、読むのがつらい時はないんですか? 安達 すごくあります(笑)。でも、苦痛に感じたらすぐにやめます。どうしても仕事に必要な場合は目次を見て、太字のところだけ拾い読みして終わることが多いです。 三宅 私も面白くないと判断した本は、日記に「今日はこんな面白くない本を読んだ」と文句を書いて終わりにします(笑)。そうしていると「次は面白い本が読みたい」と、次の本へのモチベーションが湧いてくるんです。 安達 面白くない本に時間を取られるのは嫌ですよね。 三宅 それに世の中、面白くない本でも「買ったんだからちゃんと面白がらないと」という雰囲気がある気がして。そんな必要はないと思うんですが。 安達 私もコンサルタント会社時代、先輩にも言われたんですよ。「ダメな仕事やダメなお客さんに時間を投じるな」と。ピーター・ドラッカーも、本の中で「頑張って死体をきれいにするのはやめたほうがいい」と言っていて、確かにと思いました。 三宅 それは面白いですね。でも、本でも何でもきちんと面白い・面白くないを判断することも、大事な読書の技術だと思っています。学生さんと話していると「何が自分の好みかよくわからない」という人もいる。でも確かに、YouTubeやTikTokのように、どんどん流れてくるものを見ているだけだと、自分の好みがよくわからなくなってくる気がするんですよ。 安達 確かにそうですね。自分で判断する、区切りをつけるって大事なこと。たとえば「この会社にずっといていいのかな」と思いつつ、ずるずる居続けてしまっていいのかとか。 三宅 それこそ、先ほどの「ダメな仕事、ダメなお客様」はどのように判断しているのですか? 安達 感覚でする時もありますし、問題が難しければ難しいほど綿密に考えないといけない時もあります。行動経済学者であるダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』という本にいいことが書いてあって。後悔しない判断の方法は、「とりあえず適当に決めるか、さもなければしっかり考えて決めること」。さっさと決めたら後悔は少ないし、しっかり考えて決めたんだったら仕方がない。でも、中途半端にあれこれ考えて適当に決めて失敗すると、一番痛手になるそうです。 三宅 確かに! 服も、散々悩んだ挙句、「安いから」と適当に決めたら一番後悔しますよね。 安達 そうなんですよ。だからパッと決めるのも結構大事だなと。本も「つまらない!」と思ったらやめる。そういう意思決定が意外と重要だと思いました。 (本稿は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏の対談記事です)
安達裕哉