なぜIT企業は“フルリモートから撤退”するのか? 表向きの理由は「社員のコミュニケーション不足」でも、企業の本音はより深刻な「コンプライアンス問題」
昭和でも「リモート勤務」は存在した
問題のシステムエンジニアに“事情聴取”を行う際、毎日のようにオフィスで顔を合わせていれば様々な手が使える。 「できるだけ証拠を集め、本人に問いただすことが必要です。出社が義務づけられていれば、突然に廊下で声をかけたり、何も説明せず会議室に呼んだり、と相手の不意を突くことが可能です。五感を働かせて社員の表情を見れば、正直に話しているか嘘をついているか見抜けることもあります。これがフルリモートだとオンライン会議や電話で問いただすわけですが、取材に協力してくれた担当者は『対面ほどうまくいかない』と断言していました。フルリモートから撤退する企業の中には『在宅勤務では社員が本当に働いているのか、悪いことをしていないのか見抜きにくい。これではコンプライアンスの徹底など不可能だ』という危機意識が原因だった会社もあるのです」(同・井上氏) 時代の趨勢はフルリモートに逆風となっているようだ。ならば、再びフル出勤が会社員の常識になるのだろうか。井上氏は「それも異なります」と反論する。 「一度、昭和の時代に立ち返ってみましょう。当時の営業マンは当たり前のように“直行直帰”で働いていました。『必ず出社せよ』とオフィスに紐付けられた勤務体系ではなかったのです。出社は週に一日でも大型契約を次々に取ってくる“伝説の営業マン”は、どんな会社にも1人はいたでしょう。一方、昭和であれ令和であれ、総務担当の社員はフル出勤が望ましいはずです。これからは職務の内容に応じ、リモートと出勤の適切なバランスを探っていく動きが盛んになっていくのではないでしょうか」(同・井上氏)
デイリー新潮編集部
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