なぜIT企業は“フルリモートから撤退”するのか? 表向きの理由は「社員のコミュニケーション不足」でも、企業の本音はより深刻な「コンプライアンス問題」
本音はコンプライアンス問題
ネットメディアの編集部で管理職として勤務する男性は「本来IT企業は他の業界に比べ、フルリモートがなじみやすい職場と言えます」と指摘する。 「IT企業の本質は、システムの構築や運用で利益を得るところにあります。プロセスよりもゴールに重きが置かれるため、極端な成果主義を採用しても問題が生じにくいはずなのです。もしIT企業において『システム開発が可能なら、どこで作業してもOK』という働き方が否定されたら、他業種では永遠にフルリモートなど不可能ということになってしまうでしょう。対面販売が必須の小売店にフルリモートを求めるのは酷ですが、フルリモートを人材獲得のセールスポイントにしているIT企業は他にいくらでもあります」 一体、IT業界に何が起きているのか、ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「この問題について、とあるIT企業の担当者に取材を依頼しました」と言う。 「その担当者によると『社員のコミュニケーション不足が原因』との報道はあくまでも表向きの理由を取り上げたに過ぎず、現場には別の本音があるというのです。一部のIT企業でフルリモートが見直されているのは、『従業員のコンプライアンス違反が見抜けないから』が本当の理由だそうです。例えば、あるシステムエンジニアが契約先の企業に派遣されていたとしましょう。コロナ禍で取引先も自分の会社も同じように『出社に及ばず』と決まりました。そのため在宅のフルリモートでシステムのメンテナンスを担当するところを想像してみてください」
フルリモートでは困難な事情聴取
そのシステムエンジニアは自宅でコツコツと働く必要があるわけだが、オフィスに出社しないとやる気が出ない。せっかく自宅にいるのだから昼間から酒を呑んだり、ネット配信で映画を見たりしたい。要するにサボりたい。何とかして仕事をサボる方法はないかと頭を働かせる──。 「そこでプログラミングに関して高度な知識を持っている大学生を探し、会社の経費を不正に使って“下請け”を依頼するのです。優秀な大学生ですから、少しサポートすればメンテナンス業務は完璧です。取引先は満足していますし、彼も仕事をサボれて楽しい毎日を送れます。IT企業はプロセスが不問でゴールだけが重要だとすれば、このシステムエンジニアの“成果”は評価されるべきなのでしょうか?」(同・井上氏) 評価するという人は少数派だろう。「経費の不正使用を見過ごすわけにはいかない。就業規則に違反している可能性も高い」と判断する人のほうが圧倒的に多いはずだ。 「評価どころか厳重注意や懲戒処分が必要な状態だと言えます。ところが会社の経費を不正に流用した疑惑が浮上しても、出社が義務づけられている時と、フルリモートが許可されている時では、実態把握に差が生じるというのです」(同・井上氏)