「タリーズ」現地での豆生産の知られざる取り組み 世界30カ国以上と取引するスタバとの違いは?
「コーヒー豆は農作物なので、こちらの提案で収穫量が減ったり人件費がかさんだりします。先方に私たちの意見を反映してもらうことは難しいのです。そこで社内の上層部にもプロジェクトの意義を何度も伝え、会社全体の取り組みとして理解してもらいました」(渡邊氏) ■アフリカ、中南米のコーヒー農園を訪ねて 今年4月、渡邊氏はコスタリカ、グアテマラ、タンザニアを訪れた。コーヒー農園があるのは人里離れた場所が多いので、産地訪問は快適な旅ではない。国際空港から小さな飛行機に乗り換えて地方空港に到着後、車で8時間かけて未舗装の道路を走る時もある。
現地関係者とのやりとりはタンザニアならスワヒリ語、中南米はスペイン語やポルトガル語だが、語学が堪能でなくてもコミュニケーションできるよう努力しているという。 そうして得た情報を社内向けのオンライン動画で従業員に告知し、対面で新商品の説明も行う。 ■シングルオリジンの豆が好まれるように タリーズが日本1号店を開業してから今年で27年になる。この間に時代は大きく変わり、消費者の嗜好も変わった。例えばビジネスシーンでは女性の活躍が一般的となり、ブラックコーヒー好きの女性も増えた。そうした変化とどう向き合っているのか。
「コーヒーに関しては大きく変化させようとは思っていません。どんな味が好きかはお客さまによって違うので、タリーズらしいコーヒーの味を提案し、好みの味を楽しんでいただきたいです。ただ、コーヒースクールに参加される女性が増え、ブレンドではなく、シングルオリジンの豆を好まれたりするなど、変化は感じています」(渡邊氏) タリーズらしいコーヒーとは、「(全体的に)世の中一般的な傾向よりも焙煎度が深く、それぞれの産地の味が感じられる」のが特徴だという。
近年は競合他社から、「若い世代を中心にドリップコーヒーを頼まなくなった」という話も聞く。コーヒー以外のアレンジ系ドリンクを好む人が多く、コーヒーはミルク系コーヒー(タリーズなら「キャラメルラテ」や「ハニーミルクラテ」)を注文したりする。 「どんな飲み方でも、コーヒーを楽しまれるのは変わらないと思います。また、学生時代は甘いコーヒーが好きだった人も、社会人になってからブラックコーヒー好きになるなど嗜好が変わる方もおられます」(同)
ちなみに一般小売店で買える清涼飲料水は全体の半数(49%)が無糖飲料となっており、コーヒー飲料も無糖でごくごく飲める薄味が増えてきた。店で飲むコーヒーから自宅で淹れるコーヒー、そしてコーヒー飲料と、消費者はさまざまな味を楽しむようだ。
高井 尚之 :経済ジャーナリスト、経営コンサルタント