4K高画質で怖さ倍増!暑さ吹き飛ぶホラー映画・UHD BDから厳選7タイトルをレビュー
うだるような暑さが続くほど、今年の夏も暑い。そんな暑さを「4K高画質なホラー映画」で吹き飛ばしてみるのはいかがだろうか? 近年、ホラー映画でも新作・旧作の双方で4K Ultra HDブルーレイ(4K UHD BD)が着実に増えている。酷暑を、高画質なホラー映画で背筋を凍らせながら乗り切るのも一興だ。 ホラー映画・UHD BDから厳選7タイトルをレビュー 本稿では、「4K高画質で怖さ倍増」とコンセプトに、今夏お薦めした4K UHD BD盤・ホラー映画から厳選7タイトルを紹介する。従来よりも画質・音質が向上することでどれほど恐怖が増すのか、そしてクオリティの高さを実感できる見どころをレビューしていく。 4K UHD BDでは、4K解像度による解像感はもちろんだが、HDRフォーマットによるコントラストの高さによる効果にも注目。暗部階調が著しく高まったことにより、ホラー映画特有の「暗闇の表現」が見違えるようになっている。ぜひクオリティチェックの内容を楽しんでほしい。(編集部) ■新作『エクソシスト 信じる者』~Dolby Visionで描かれる“悪魔憑き映画” 12年前にハイチを襲った大地震に見舞われたカメラマンの男は、瀕死の妻から帝王切開で取り出された娘を男手一つで育て上げ、平穏な毎日を送っていたが、ある日、娘はもう一人の少女と出かけたきり行方不明になる。三日後、失踪現場から遠く離れた馬小屋で少女たちは保護されるが、おのおのの家庭に帰った少女達は異常な言動を繰り返すようになる。娘に何が起きたのか。50年前ワシントンで起きた悪魔憑き事件を知った男は、唯一の生存者で事件の語り部クリス・マクニールに助けを求める。 「自然な色表現と穏やかな階調が怖さを引き立てる」 主人公はアフリカ系アメリカ人の父娘、映画の序盤はハイチが舞台と、ジョージタウンが舞台の1973年版の設定から遠く隔たっているので、一見関連がないようだが、編曲された「チューブラー・ベルズ」が高鳴り、エレン・バースティンが登場すると時空を隔てた物語が縫い合わされる。 本作の優れた所はご都合主義に陥らないことだ。テーマは究極の二者択一。辛口の映画である。映画の結末は人間が試練に敗れ、狡猾な悪魔は満足して死者たちを連れ、二つの家族と聖職者たちから去っていったようにみえる。いや弱い人間だけが存在するのかもしれず、試練は人間がいる限り永遠に続く…というと救いのない映画のようだが、ラストシーンの再会は胸を打つ。 HDRフォーマットはDolby Vision。暗部階調の表出に重点が置かれ、ピークを生かしたシーンはほとんどない。偏りのない自然なカラーバランスと穏やかな階調の落ち着いた映像が恐怖を生む。CH4二人の少女が森の廃屋の地下で交霊に耽るシーンは、都会の表皮に隠蔽されていた社会の古層が身近に顕現する描写で過去の「エクソシスト」にない視点。CH16に始まる悪魔祓いは少女の肉体が浮上するシーンなどCGで自由自在に描ける分リアルな迫力が後退した感もある。 SPEC ●制作:2023年/アメリカ ●監督:ジャスティン・シミエン ●出演:ラキース・スタンフィールド、ティファニー・ハディッシュ、オーウェン・ウィルソン 他 ●本編映像:111分、ビスタ、Dolby Vision ●本編音声:英語Dolby Atmos、日本語Dolby Digital 5.1ch ●字幕:日本語、英語(聴覚障がい者対応) ■新作『ホーンテッド・マンション』~立体音響で飛び回る幽霊、自宅がお化け屋敷に! あこがれのニューオリンズの古い屋敷に移り住んだ母子。到着したその日からこの家、何かがヘン。妻を亡くして以来、失意の毎日を送る元宇宙物理学者を除霊に雇うがさっぱり役に立たない。幽霊が一度取り憑いたらもう逃げられないのだ。母子は神父、郷土史の教授、霊媒師の女を呼んでチームを結成し、屋敷の由来を探ると933人の幽霊が住みつき、千人になった時にパワーが満ちて幽霊たちは復活するらしいではないか。成仏不動産チームはそれを阻むことができるか? 「Dolby Atmosで999人の幽霊が視聴室を飛び回る」 TDLのアトラクションの舞台はロンドンとばかり思っていたが、ニューオリンズだったことを本作で知った。アトラクションに忠実に物語性をふくらませた体験型映画。全篇の80%がダークシーンの暗部イノチの映画。4K UHD BDはHDRで暗部階調が整い情報が豊か。薄闇の奥まで見通せてその中の色彩に甘美な艶がある。 BDからの暗部表現の伸びしろは大きく、CH10/12のグレイシー邸での交霊会のシーンは、暗がりの奥にひそみ跳梁する幽霊たちの悪戯を余さず目撃することができる。CH16邪悪なクランプ邸のシーンは暗部表現の極み、CH18は闇と幽霊の眼光のコンビネーションが妖しく美しい。 映像以上に音響は遊び心豊か。一般の劇映画でありえないほど後方チャンネルやハイトチャンネルにオブジェクトを惜しげもなく回し、視聴室は我が物顔に暴れ回る幽霊たちの嬌声に占領されたかのよう。サラウンドの移動表現はいい意味であざとくクライマックスCH19は999人の幽霊が聴き手の頬を掠めて視聴室を飛び回る。子供の観客に配慮したのか、本当にコワいシーンはなく、心臓に悪い音のショッカー演出もなくディズニーらしく最後は家族愛、ホラー映画というより、浦安にいかずとも自宅で楽しめるお化け屋敷。 SPEC ●制作:2023年/アメリカ ●監督:ジャスティン・シミエン ●出演:ラキース・スタンフィールド、ティファニー・ハディッシュ、オーウェン・ウィルソン 他 ●本編映像:122分、スコープ、HDR10 ●本編音声:英語Dolby Atmos、日本語Dolby Digital Plus 7.1ch ●字幕:日本語、英語、日本語吹き替え用 ■新作『M3GAN/ミーガン』~HDRによる暗部階調が効果を上げる人形ホラー 『ソウ』『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン製作のAI人形ホラー。FANKI社の開発技術者ジェマは、高度な学習能力を持つAIコンパニオンドールM3GAN(ミーガン)が完成目前だった。偶然、交通事故で両親を亡くし孤児となった姪ケイディの仮親となったジェマはミーガンを友達として与え、「ケイディを守るように」と指示する。忠実に実行するミーガン。それは主人(第一ユーザー)を傷つける者に容赦のない制裁を加えることだった。守護者ミーガンの暴走が始まる。 「夜の報復劇でHDRの暗部表現が効果を発揮」 人形ホラーは洋の内外を問わず映画、テレビの人気ジャンルである。いにしえより人間の願望を象って生まれたのが人形だから当然である。多くは怨念が取り憑いて人形が動き出しその代表は『チャイルド・プレイ』だが、本作のミーガンは高度な学習能力を持つ人間型ロボット。ダウンロードで知力をパワーアップするから始末が悪い。ロボット兵器並の殺傷能力を持ち、制御不能になると残虐性はスプラッターである。AI時代に「ありうるかも…」の恐怖を狙い、デジタルシューティングの高画質でアクチュアルな映像。 CH13夜の報復劇でHDRの暗部表現が効果を発揮する。ワーキングウーマンのジェマは技術者としての野心ゆえに開発にかまけ、ケイディを放置して世話をしない。その分守護者ミーガンの存在感が増していく。CH12凄惨な「お仕置き」で死んだ少年をジェマは「天国へ行った。」と言い繕う。 ロボットの暴走以上に恐ろしいのは、人間の偽善であり無責任であり無神経な干渉である。本作の諧謔味がそこにある。ミーガンのアクションの大半はCGだが、ダンスなど一部は子役が演じている。それが見ていてわかってしまったら本末転倒というもので本作のホラーとしての弱点。 SPEC ●制作:2022年/アメリカ ●監督:ジェラード・ジョンストーン ●出演:アリソン・ウィリアムズ、ヴァイオレット・マッグロウ、ロニー・チェン 他 ●本編映像:102分、スコープ、HDR10 ●本編音声:英語DTS-HD Master Audio 7.1ch、日本語 DTS Digital Surround 5.1ch ●字幕:日本語、英語(聴覚障がい者対応) 往年の名作が4K/HDRで怖さ蘇る!大橋伸太郎の個人的お薦めタイトルまで ■旧作『エクソシスト』~オカルト映画の金字塔が精細感を増して復活! ベストセラー小説を映画化しオカルトという人間の禁断の領野への関心を現代に呼び起こした。ゴールデングローブ賞主要4部門を獲得。ジョージタウンで裕福に暮らすベテラン女優のシングルマザーと12歳の独り娘。ある日、娘の体と心に異変が起きる。表情が醜く歪み、男のような低い声で卑猥な言葉を周囲に投げつける。脳波を調べても病変は見つからず、症状は深刻の度を増していく。母が最後に頼ったのは、カトリック教会に現代も伝承されるエクソシズム(悪魔祓い)だった…。 「4Kで砂漠での対峙シーンを立体感豊かに描く」 1973年の公開時に、この映画のアメリカに巻き起こした波紋はひじょうに大きく、社会現象にたとえられるものだった。50年前のアメリカははるかに保守的な社会であり、地方部では日曜日には教会へ行くキリスト教道徳が守られていた。若者はともかく、この映画を見た平均的なアメリカ人の不快感は容易に想像できる。本作でハリウッド映画は一線を越えてしまったのである。テーマが異様なだけでなく表現が常識外だった。 CH28思春期を迎えたばかりのいたいけな少女が十字架で自分の性器を傷つけ母親を打擲する、CH30神父の顔にヘドを吐く。社会派アクション監督ウィリアム・フリードキンのリアリズム演出はあたかも現実の出来事のように描き、観客は悪魔祓いの現場に立ち会っているかのようにそれを茫然とみつめる。映画の序章CH3イラクの砂漠でメリン神父が仇敵バズスと対峙するシーンは、物語に広大な時空のパースペクティブを生み出す見事な映像だが4K精細感が生む立体描写で一段と効果が上がっている。 CGなどないアナログVFXの時代ゆえ、公開当時話題を呼んだ少女の体が中空に浮かび、頭部が360°回転するシーンはメカのギミックがバレバレで時代を感じさせるが、逆にデジタルでない手作りゆえの迫力がある。不謹慎な言い方で恐縮だが、ホラー映画の新約聖書。すべてはここから始まった。 SPEC ●制作:1973年/アメリカ ●監督:ウィリアム・フリードキン ●出演:エレン・バースティン、リンダ・ブレア、ジェーソン・ミラー 他 ●本編映像:132分(ディレクターズカット版)/122分(オリジナル劇場版)、ビスタ、HDR10 ●本編音声:英語DTS-HD Master Audio 6.1ch、日本語Dolby Digital 5.1ch(ディレクターズカット版)/英語DTS-HD Master Audio 5.1ch、日本語Dolby Digital 5.1ch(オリジナル劇場版) ●字幕:日本語、英語 ■旧作『シャイニング』~HDRでコントラストが圧巻の映像美 小説家志望の元教員の男、ジャック・トランスは傑作をものにすべく、妻と一人息子を伴ってコロラド山中のホテルで一冬の管理人を勤めることを決める。ホテルには前任者が斧で妻と双子の娘を惨殺して自殺する忌まわしい過去があった。幼いダニーは出発前に何者かがホテルで一家を待ち受けていることを予知する。到着早々ダニーはホテルの料理主任からこっそり教えられる。「私と同じようにきみには特別な能力、シャイニングがある。それを狙っている者がいる。気をつけなさい」と…。 「ゴールドルームや雪の迷路がHDRと広色域でさらに映える」 原作者スティーヴン・キングが映画に不満を持ち、自身の手で再映画化(製作総指揮)したエピソードはよく知られている。冷厳な左右対称の撮影構図と時系列で出来事を追うドキュメンタルな構成から、理性が狂気に変わる叙事的物語であることがわかる。悪霊たちは見えたり聴こえたりするが、決して人間を攻撃しない。あくまで人間が殺人を犯すのである。少年が父親の魔手を逃れるのも超能力でなく機転によってである。悪霊が実在するのか孤立した一家の集団幻想なのかは判然とせず観客に委ねられる。まことにキューブリックらしい映画。この曖昧さが本作をホラーの極北の単独峰へ押し上げた。 しかし、本作が公開以来愛され続けるのは圧倒的な映像美によってである。CH1何者かの視線を感じさせるヘリ空撮、CH12ステディカムによる少年の背後撮影、CH23無人のはずのゴールドルームの賑わい、そしてCH36クライマックスの雪の迷路。4K UHD BDはHDRとBT.2020を得てフィルムの隅々まで栄養が行き渡り新たな生を得たかのように精気がみなぎっている。 HDRでローカルコントラストが豊かになり、惜しくも最近逝去した妻役シェリー・デュバルのクローズアップの黒髪や瞳の描写に、登場人物中唯一最後まで常人に留まる(疎外されている)平凡な女の生々しい存在感が生まれ、狂気と正気、見える者と見えない者の対比が鮮やかになる。 SPEC ●制作:1980年/アメリカ ●監督:スタンリー・キューブリック ●出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュバル、ダニー・ロイド 他 ●本編映像:144分、ビスタ、HDR10 ●本編音声:英語DTS-HD Master Audio 5.1ch ●字幕:日本語、英語(聴覚障がい者対応)、日本語(音声解説用) ■旧作『ローズマリーの赤ちゃん』~さらなる恐怖と緊迫感を得た4Kリマスター ベストセラー小説のポランスキー(脚本、監督)による映画化。売れない俳優と新妻ローズマリーが念願かなって入居したニューヨークの風格あるアパートは数々の忌まわしい伝説に彩られていた。入居早々に隣家の養女が転落死する事件が起きる。数日後、隣家の初老の夫妻が馴れ馴れしく振る舞い始め何かと新妻の世話を焼くようになり夫に急によい役が舞い込む。そんなある夜、ローズマリーは悪夢にうなされる。夢の中で彼女は何者かに犯されるのだった。 「クライマックスでHDRが効果を発揮、光と闇の対比に注目」 新妻の受胎、妊娠、臨月、出産という生理と心の起伏と闇の世界との交わりを描いた名作。永遠の生への希いと死の克服が本質のオカルティズムにあって「性」は欠かせない。ポランスキーの脚色は原作に忠実でいながら簡潔化に成功。ローズマリーが異形の赤ん坊に戦慄しつつ母性が目覚めるくだりの原作小説の描写は冗長だが、映画は他人の女を押しのけ揺りかごをそっと揺らし始めるローズマリーのワンアクションで見事に表現した。 大半のシーンがN.Y.のクラシックなアパートメント室内。BT.2020の広色域を得て、現代アメリカの日常生活を象徴する雑多な色彩と伝説の纏わりつくアパートの調度の陰鬱で重厚、ヤニっぽい色彩のコントラストが生まれている。 一貫してローコントラストでピークを使うシーンは少ないが、CH28死産のはずの赤ん坊の泣き声に気付いたローズマリーが隣家へ続く廊下の闇を歩むクライマックスは、HDRが効果を発揮する最大の見せ場。闇のむこうは悪魔が支配する世界。真暗のなかに鍵穴の光がぽつんと点り見開いたローズマリーの瞳と恐怖に、はりつめた表情が白々と照らし出される。4K/HDRを得て、ホラー映画にDVDやBDで得られなかった恐怖効果と緊迫した映像が生まれた。 SPEC ●制作:1968年/アメリカ ●監督:ロマン・ポランスキー ●出演:ミア・ファロー、ジョン・カサヴェテス、ルース・ゴードン 他 ●本編映像:136分、ビスタ、Dolby Vision ●本編音声:英語Dolby TrueHD 2.0ch ●字幕:日本語、英語 ■大橋伸太郎が“個人的”に推す『ラストナイト・イン・ソーホー』 正調の英国怪談にファッショナブルな装いを凝らしたホラー。デザイナー志望のエリーが念願かなって憧れのロンドンで独り住まいを始めると、60年前に同じアパートで行方不明になった歌手志望の娘サンディの幻影が現れる。シラ・ブラックやペトゥラ・クラークの歌がシグナルになり闇を通り抜けるとそこは1965年のスウィンギング・ロンドン。しかし華やかなうわべの下に魔物が蠢いていた。サンディ役アニャ・テイラー=ジョイのその後の活躍(フュリオサ)はご存知の通り。 「Dolby Atmosによる亡霊たちの叫びと囁きは必聴」 映画の舞台は21世紀と1965年のロンドンを往き来する。繁栄に酔いしれる華やかな大都会のダークサイドを描く映画だが、一貫して映像のルックはドロドロせず透明感豊か。現代のロンドンはクールで落ち着いた映像。それに対して1965年のソーホーは徒花と感じさせる厚みのある色彩設計である。Dolby Atmosのサウンドデザインも優れている。高さ方向へ音場を拡大するよりグラウンドレベルを重視し、サスペンス描写でのサラウンドバックの使い方が巧い。 もうひとつの聴きどころは、1960年代のノスタルジックなヒットチューンの数々。CH1タイトルバック、アートスクールの合格通知を手に喜びにふるえるエリーの背景にピーターとゴードンのナンバーワンソング「愛なき世界」が流れる。CH5コリンズ夫人のアパートで眠りにつこうというエリーがシラ・ブラックの「ユー・アー・マイ・ワールド」のレコードをかけると最初のシンクロが起き、闇をくぐりぬけるとそこは1965年のソーホー。 60年を隔てた二つのロンドンの対比はディスプレイの暗部階調とS/N、色彩表現の試金石である。CH17 クライマックス。コリンズ夫人の昔語りに呼び覚まされた亡霊たちの叫びと囁きが高まり、エリーをそして聴き手を取り囲み締めつける。 SPEC ●制作:2021年/イギリス ●監督:エドガー・ライト ●出演:トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス 他 ●本編映像:144分、スコープ、Dolby Vision ●本編音声:英語Dolby Atmos、日本語Dolby Digital 5.1ch ●字幕:日本語、英語
大橋伸太郎