古川琴音が“カギ”となる『海のはじまり』 複雑な時間軸を成立させる“確かな演技力”
2024年は古川琴音の年であるーー。 これは今年の年末にも再び記すことになるだろうが、この8月時点でも明記しておきたい。しておかなければならない。そしてこれに同意してくださる方は、かなりの数いるのではないだろうか。現在は月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)が放送中である。 【写真】病室で海(泉谷星奈)に絵本を読み聞かせる水季(古川琴音) 本作で古川が演じているのは、主人公・月岡夏(目黒蓮)のかつての恋人である南雲水季。彼女は彼の元を一方的に去り、やがてこの世からも去ってしまった。ふたりの間にできた娘の南雲海(泉谷星奈)を残して。 この物語が描くのは、残された娘の海と、彼女の誕生と存在を知らなかった夏の心の交流である。つまり古川が演じているのは、本作のヒロインにあたるわけだ。 しかし、本作は“現在”と“過去”というふたつの時間軸の物語を並行して紡いでいくもの。“現在”のパートでは、夏のパートナーとして百瀬弥生(有村架純)が存在する。そして彼女は自分の愛する人に海という名の子どもがいたことを知り、最初のうちこそ戸惑うが、やがて母親になることを決意する。つまり、前(=未来)を向いて生きていくことを誓うわけだ。夏にしても、娘の海とのこれからを何よりも大切にしようとしている。だから本作は生前の水季を想うばかりでなく、彼女の死後の世界を生きる者たちの物語だといえるだろう。自然と作品の比重は“過去”よりも“現在”に傾く構造となっている。水季は正確には、“もうひとりのヒロイン”のポジションなのである。 “現在”と“過去”のパートをそれぞれ描いている本作は、俳優に課されるものが大きく重い。“現在”と“過去”とでは物語の中心に立つ人物が違う。古川に関していえば、“過去”のパートではほとんど主役に近い存在だが、当然ながら“現在”のパートには姿を見せることがない。けれども先述しているように本作は、水季の死後の世界を生きる者たちの物語である。“現在”のパートにも彼女の足跡(=生きた証)が見受けられなければならない。これを体現するのが娘の海でもあるわけで、彼女の存在をとおして水季に想いを馳せる者たちの姿には胸を締め付けられる。目黒をはじめとする俳優たちは、そこにいない人間のことを想って感情的な演技をしなければならない。簡単ではないことだ。 そしてこれを私たち視聴者が的確に受け取ることができるかどうかは、古川が“過去”のパートでどのように水季という人間の人生を生きていたかにかかっているだろう。