戦場カメラマン・渡部陽一インタビュー「紛争地に入るときは、恐怖で震えています」
── いつもベストを着ていらっしゃいますが、何が入っているのですか? 渡部:カメラベストには、ポケットがたくさんついています。現場では、このポケットに必ず、決まったものを同じ場所に入れています。右下のポケットには、小型カメラ。左下のポケットには、取材で使うメモ帳やノート。左胸には、携帯電話や筆記用具。右胸には、パスポートであるとか、プレスカードと呼ばれる取材身分証明書。 戦場の前線には、電気がほとんどないんです。暗闇のなかで、何がどこにあるのか、すぐにとりだせるように、カメラベストの決まった場所に決まったものを入れています。もし、ジャングルで、木にベストが引っ掛かって破れてしまったときには、すぐに、まったく同じカメラベストに着替えて、同じポケットに、決まったものを全部移し替えます。常に、どこに何があるのか、自分自身で確認をして、現場でスピードをもって撮影ができる環境を、ベストを使って整えていますね。
── 「ジャーナリストが、紛争地に行くべきかどうか」という議論があります。「リスクを伴う取材であっても、誰かがやらねばならず、それが報道機関の使命である」という見方がある一方、「いくら取材であっても、拉致・誘拐があれば、政府や国民に多大な迷惑をかけるのだから、自粛すべきだ。もしくは、自己責任だ」という批判的な見方があります。どう思われますか? 渡部:国際報道も国内報道であっても、取材の危機管理は、撮影する事よりも大切な事だと思います。優先順位としては、危機管理が第一、取材が第二。この優先順位がベースとしてあります。そのために、できる準備をどれだけしておくのか。自分が(取材に)入っていく理由や任務を、どれだけ具体的に伝える事ができるのか。何かあったときの責任を、どうした入り口につなげていくのか。その段取りを組んでおくこと、伝えておくこと、整えておくことが大切だと思います。 がむしゃらに突っ込んで行こうとする人はほとんどいないと思います。そのなかで、いかに具体的に取材に入っていく危機管理であったり、今までの取材形式であったり、イスラム国という存在が、どのように、過去の戦争と違うのかという分析力であったり、いろいろな引き出しの準備の土台というものを整え、伝えておくことも大切であると感じます。 どんなところの入り口から入っても、正しいのか、悪いのか、という答えはなかなか見えないのだと思います。どんな方法で伝えていくのか。アメリカのメディアはどう伝えるのか。ヨーロッパのメディアはどう伝え、日本のメディアはどう伝えるのか。いろいろな入り口の答えが無いなかで、危機管理をまず優先し、そこから取材に入っていく、という順番は、優先順位として大切である、と感じています。それを、カメラマンの方でも、誰であっても、判断をし、伝えていく。これは大切な、危機管理の入り口であると考えています。