安部裕葵はバルサで「偽9番」の何を学びU―22代表にどう生かすのか?「自己マネジメント能力が身についている」
まずは言葉の壁を乗り越えつつあることだ。未知の言語だったスペイン語に関して「年内に覚える」と加入直後に掲げていた目標を聞くこと、特にサッカー用語に関してはほぼ完璧な状態にまで達成できたことで、周囲とのコミュニケーションがより密に取れるようになった。 「英語は勉強していましたけど、スペインへ行くとは思っていなかったので、最初のころはスペイン語がわからなかったですね。スペインへ行ってからは、もちろん勉強しています。最初の1、2ヶ月は自分で勉強して、その後は先生をつけて。けがの予防やコンディションを保つために、細かい違和感などを伝える点で言葉が通じないことはストレスでしたけど、最近はそれもなくなりました」 寮生活だったアントラーズ時代から一転して、白米など日本食を購入しやすい環境にあるバルセロナでは自炊にもチャレンジしている。みりんや醤油、味噌などの調味料を使いこなしながら「肉を焼くとか、茹でる、煮るとかノリでやっています」とスペインでの生活の一端をこう明かした。 「これを入れたら何となく美味いやろうな、って感じですね。家から出るのが面倒くさいので、ならば外食するのだったら自炊する方が楽だなと思って。言葉を含めて、日本に比べると不自由なところがあるし、そういったところで自己マネジメントというか、そういう能力は身についていると思う」 時間の経過とともにストレスが取り除かれてきたなかで、サッカーに関しては国境や壁といった類のものが存在しないことを、肌をもって実感できたことも安部を駆り立てた。常勝軍団アントラーズで叩き込まれてきた鉄則を、バルセロナではさらにレベルを上げて要求されているからだ。
「いまは攻撃よりも、守備を常に考えています。鹿島のときにも教わったシンプルなことを、バルセロナでも教わりました。試合の流れをつかむには、いい攻撃をするよりも、いい守備をする方が簡単なので。いい守備ができればいい攻撃にもつながりますし、バルセロナで言われるのはほぼ守備のことですね。いかにボールを奪うか。見ていただければわかると思いますけど、全部行きますから」 全部行くとは、要は前線の選手が絶え間なくプレッシャーをかけ続けることを指す。長崎市内で行われている、ジャマイカ戦へ向けた3日目のトレーニングキャンプでは紅白戦を実施。主力組でシャドーの位置に入った安部は、1トップの前田大然(CSマリティモ)と試合中に何度も話し合っていた。 「大然くんとずっと守備のことを話していました。見ていてわかったと思いますけど、僕のチームの方がどんどん守備がよくなった。前からいけていたので。いい位置でボールを奪うこともそうですけど、前からいけば相手もパスコースを作るために下がる。細かい話になっちゃいますけど、そういう状況になれば味方もセカンドボールを拾いやすくなるので」 猛然とプレスをかけてかわされる、いわゆる「剥がされる」と呼ばれる状況になれば、徒労感も手伝って体力の消耗度も増す。それでも、勝負は細部に宿るという万国共通の鉄則を異国の地で再確認した安部は「1試合のなかで、たとえ10回くらい剥がされたとしても」と、泥臭さと愚直さをより前面に押し出してゴールを、そして勝利を求める姿勢を手土産に日の丸を背負った。 「力のある選手が(後ろには)いるし、剥がされたとしても守れると思うので。一度剥がされて、ちょっとやめて下がろう、となればずっと相手に押し込まれてしまう。だったらそっち(どんどん行く)の方が、僕はいいと思っている。もちろん僕一人で行ってもダメなので、共通理解をもてるように、みんなの意見を聞きながらやろうと思っています」 ジャマイカ戦は[3-4-2-1]システムで戦うことが予想され、安部はシャドーと呼ばれる「2」の一角を担う。11月のU-22コロンビア戦では、今回は招集されていない久保建英(RCDマジョルカ)と堂安律(PSVアイントホーフェン)が先発し、三好康児(ロイヤル・アントワープFC)や食野亮太郎(ハート・オブ・ミドロシアンFC)も続く、東京五輪世代のなかでも最激戦区となる。