海事業界の転換点か 日本の海運・造船が共同で液化CO2の輸送船を開発へ
日本郵船、商船三井、川崎汽船の邦船大手3社は、今治造船、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)、日本シップヤード(NSY)、三菱造船の国内造船4社と、液化CO2(二酸化炭素)輸送船(LCO2船)の標準仕様・船型の確立に向けた共同検討を開始した。7社が27日発表した。共同検討はまず、LCO2船の標準船型を他の国内造船所でも建造できるようにすることを念頭に始動し、検討対象をアンモニア燃料船などの新燃料船に拡大。国内造船他社に合流を呼び掛け、新規分野のデザインをオールジャパンで開発・建造する体制の構築を目指す。 国内で回収したCO2を貯留地に向けて海上輸送するCCS(CO2回収・貯留)プロジェクトでは今後、LCO2船の需要拡大が見込まれる。これに向け、日本でLCO2船を安定的に建造・供給し、CCSバリューチェーンの実現と経済性向上を図る必要がある。 7社はこうした背景から、LCO2船の標準仕様・船型の確立や建造サプライチェーンの確立が重要な課題との共通認識の下、共同検討の開始を決定。2028年以降の国際間大規模LCO2海上輸送の実現を目指す。 共同検討はLCO2船から着手し、邦船3社が求める標準船型を今治造船・JMUの共同設計営業会社NSY、三菱造船が開発。その建造を今治造船・JMUだけでなく、国内の他造船所でも可能にすることを目指す。 次の展開として、アンモニア燃料船など脱炭素化技術を活用した新燃料船の設計・開発・建造についても、7社で共同検討する計画だ。 7社は新燃料船についても、「同じ課題認識を共有する他造船所を含め、業界関係者と広く連携する枠組みの構築など、業界一丸となり脱炭素社会のさらなる進展に貢献していきたい」としている。 【解説】海事業界 転換点か 7社連合の発足は、日本の海事業界の転換点になる可能性がある。LCO2船を入り口に今後、ゼロエミッション船の本命候補と目されるアンモニア燃料船の開発・建造についても、海運・造船がオールジャパンで取り組む土台になり得るからだ。 まず将来の大規模な需要が見込まれるLCO2船で、邦船3社が船型の統一で合意したインパクトは大きい。 LNG(液化天然ガス)燃料船などの新技術船でも従来、各船社には独自の仕様があった。これがLCO2船では、邦船3社が求める仕様の〝最大公約数〟を盛り込んだ標準船型を共同で検討する。 これにより、造船所は限られた設計リソースを集中的に投入できる上、同じ船型でまとまった隻数を建造することで価格競争力を発揮できる。 さらにこの標準船型の建造について、今治造船・JMUだけで手掛けるのではなく、他の国内造船所に合流を呼び掛けている点が従来の提携と大きく異なる。 設計機能の一定の集約など、国内造船所同士の連携を模索する動きは過去にもあったが、「総論賛成・各論反対」で成就しなかった。これが、まだ技術や市場が確立されていない新規分野であるLCO2船であれば、造船所同士が連携しやすい。 最大のポイントは、LCO2船の次の展開として、アンモニア焚(だ)き船などの新燃料船が共同検討の対象になることだ。 邦船3社は脱炭素への移行期に使用するLNG燃料船を各社が独自に開発・整備してきた。一方の国内造船所には、同船の建造で中国・韓国造船所の後塵(こうじん)を拝したとの危機感がある。 こうした中、ゼロエミ船の有力候補に挙がるアンモニア燃料船などについて、邦船3社が参画する連合が共同検討を進めれば、次世代船の標準デザインが幅広い船種で確立される可能性がある。 7社は新燃料船についても、「同じ課題認識を共有する国内の他造船所」の参画・連携を呼び掛けている。 連携の鍵は、タンクの融通だ。 国内造船所は複数社がLNG焚き船の燃料タンクの内製化を始めているが、各社が設備投資を行って設計リソースを使い人員も投入しており、日本全体で見れば効率的とは言えない。 これを例えば、今治造船・JMUがLCO2船の貨物タンクを造船他社に供給し、船自体の設計図面も供与すれば、代わりに他社が両社分のLNG燃料タンクの製造を請け負うなど、連携が広がる可能性がある。 「かつて約6割と世界首位だった日本の建造量の世界シェアは、数年後に1割まで落ちかねない。国内造船所同士が激しく競合し、邦船大手の案件を奪い合う時代に終止符を打つべきだ。新規分野で日本連合の技術を結集し、中国・韓国造船所に先行するほかに道はない」 今治造船首脳はこう話す。 邦船大手の連携の背景にも期待と危機感が存在する。 「日本の海事産業、特に造船・舶用の再活性化の好機になる」 日本郵船の曽我貴也社長は6月の本紙インタビューで脱炭素プロジェクトについてそう発言。 「このチャンスを生かせないと、日本の造船業が衰退に向かう恐れがある。資源エネルギーの大半を輸入に頼る日本の経済安全保障上も大きな問題になる」と警鐘を鳴らし、「日本の海運会社も、脱炭素を盛り上げるために可能な領域は協力すべきだろう。海運側からの仕掛け作りも考えていきたい」と連携の構想を語っていた。 7社連合発足を受けた国内造船他社の動きに注目が集まる。 (松下優介)
日本海事新聞社