炎上に火をくべる人は「40万人に1人」しかいない…「ネットで攻撃的な人が増えている」がウソである理由
■毎日4件以上の炎上が起こっている 人や企業の行為や発言に対して、大量の批判や誹謗中傷がネット上に寄せられること。これが、「炎上」と呼ばれます。ニュースでも頻繁にこのワードを耳にするように、炎上は日常茶飯事に。私がアドバイザーを務めているデジタル・クライシス総合研究所の調査によると、2023年の1年間で発生した炎上は1583件。1日あたり4件以上の炎上が、ネットのどこかで起こっていることになります。 【図表をみる】管理職、特に部長クラス以上に炎上参加者が多い こうした数字を見て、「最近の社会には、攻撃的な人が増えている」と感じている人も少なくないでしょう。でも果たして本当にこの世の中には、不満を感じている人が劇的に増えているのでしょうか。結論から言うと、必ずしもそうではありません。炎上が頻発しているのは、強い思いを持った「一部」の人が、一人で大量に発信しているからなのです。 例えば、ある炎上が起こったとき、それについてX(旧Twitter)上にどのくらいの人がネガティブな書き込みをしたのかを調査したことがあります。その結果、炎上の火をくべていたのはごく一部の人。ネットユーザー全体の0.00025%というごくごく少数だったことがわかりました。 炎上というと、膨大な書き込みの数から、日本中、世界中の人から非難を受けているような錯覚を覚えますが、実はネットユーザーの40万人に1人くらいの少数意見が大量に発信されて起こっているにすぎません。誹謗中傷が裁判になった例では、被告の男性は1人で数百以上ものXのアカウントを持ち、大量の誹謗中傷コメントを投稿していました。 炎上はこうした一部の少数意見で構成されていることが多いため、その内容も社会の意見分布と一致しないことが多くなります。 インターネットというのは能動的な発信だけで構成される言論空間。その結果、極端で強い思いを持っている人ほど大量に発信するというような偏りが生まれます。一方、新聞やテレビなどのメディアの世論調査では、聞かれたから答えるという受動的な発信をすくいあげるため、リアル社会の意見分布に近くなります。 例えば憲法改正というテーマで調査研究したところ、「非常に賛成」から「絶対反対」まで7段階で、回答者の意見で多かったのは「どちらかといえば賛成」「どちらかといえば反対」などの中庸な意見。世論調査では、回答分布をグラフにすると、真ん中が膨らむ山形の分布になることがほとんどです。 ところが、SNSでの投稿を分析したところ、多かったのが「非常に賛成」と「絶対に反対」。世論調査とは反対のカーブを描き、この2つで全体の46%を占めました。ごく一部の人が極端な意見を大量に発信することで生まれるネット世論と、様々な人の意見を集約するリアルの世論。両者の差が大きく広がることもよくあります。 その例として私がよく引き合いに出すのは、2020年の都知事選です。当時のツイッターを分析した研究によると、90%が小池百合子氏批判で、残りの多くはほかの候補者を支持する意見。小池氏を支持する声はほとんどありませんでした。一方マスコミの世論調査結果は期間中一貫して小池氏の優勢を報道。実際の選挙も、小池氏の圧勝という結果に終わっています。 炎上させる人の属性についても研究が進んでいます。若いネットのヘビーユーザーをイメージする人も多いでしょう。でもそうした人ばかりではなく、実は主任以上の管理職も少なくない。私の調査では、炎上に参加した人の中で主任・係長クラス以上は31%。一方、炎上に参加していない人の肩書では、主任・係長クラス以上は19%しかいませんでした。そのほかにも様々な属性の人が関わっていることがわかっています(図表)。 炎上を起こす人はおおむね裕福ではあるものの、その内面には特徴的な部分も多いことがわかっています。例えばパーソナリティ分析をすると協調性が低いとか、あるいは人とか社会に対して否定的で攻撃的とか。そういう人が、自分の持つ正義感や価値観が正しいと思い込んで、炎上の火をつける。陰謀論が好きな人も一定数いて、自分だけが真実を知っているという優越感で、承認欲求を満たすべく広めるというケースもよくありますね。