これが日本の町工場の底力だ! 「エボナイトの復活」と「ジュラルミンの再生」 伝統の技と柔軟な発想が新たなニーズを生む!!
いま、目を向けるべきは「職人の技」だ!
夏目漱石の短編集『夢十夜』の中に、次のような話がある。護国寺の山門で鎌倉時代の仏師、運慶が大木に仁王像を彫っている。次第に壮麗な姿となる技に感心していると、隣で見物していた男がこう言った。「運慶は木の中に埋まっている仁王を掘り出しているだけだ」――寓話だけにさまざまな読み取り方が可能だが、素材とプロダクトの唯一無二の結びつきという解釈もありうるだろう。 【写真2枚】エボナイトとジュラルミン、日本の下町の町工場から心躍る新しい商品が生まれている! 商品にトレンドがあるように、素材も時代の趨勢とは無縁ではいられない。そして素材を専門に扱うメーカーにとって、先細りの需要は存亡に関わってくる。 エボナイトもそのひとつ。天然ゴムに硫黄、エボナイト粉末を混ぜることで超硬質になり、加熱によってさまざまな成形が可能な特性から、絶縁体や車のフロートなどに使われていた。特に重宝されたのが万年筆。しっとりと手に馴染む質感から愛用されていたが、より安価なプラスチック樹脂が主流に。多くの工場が廃業するなか、東京荒川区の日興エボナイト製造所は自社での万年筆製作に乗り出す。従来の黒に加え、顔料を加えた美しいカラーマーブルを開発し、「笑暮屋―Eboya」としてブランディング。昔ながらの手触りを求めるペン好きから支持を集め、ECサイトで好調な売れ行きを見せる。工場から2軒隣にある直営店に遠方から訪れるファンも多い。 ◆素材への知見が活きる新商品開発 三重県亀山市にあるギルドデザインは、高強度ジュラルミンの無垢材を使った工業製品を扱うメーカー。バイクの改造用アフターパーツが主流だったが、バイク人口の減少により、大きく売り上げがダウンした。そこで素材が持つタフな剛性、さらにレース用車両製造で培われた軽量化のノウハウを生かし、スマートフォンを衝撃から守るバンパー、カードケース、キーオーガナイザーを製作。カードケースは引き出しやすさを配慮し、極小のベアリングを内蔵するなど、職人ならではの繊細な技が活かされている。 エボナイトとジュラルミン。苦境に陥った町工場のブレークスルーは、あらためて素材と向かい合い、新たな可能性を見出すことで成された。発想の転換と技術への自信がその根底にある。文豪が夢に見た運慶の後継者は、令和の町工場で新たな宝を掘り出しつつあるようだ。 文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫 (ENGINE2025年1月号)
ENGINE編集部