江口洋介×蒔田彩珠「連続ドラマW 誰かがこの町で」同調圧力と忖度の恐怖を描いた撮影の裏側:インタビュー
江口洋介と蒔田彩珠が、12月8日午後10時から放送・配信されるWOWOWの『連続ドラマW 誰かがこの町で』に出演。本作は集団による同調圧力と忖度の恐怖を描いた社会派ミステリーで、19年前の一家失踪事件を追うストーリー。江口は法律事務所の調査員・真崎雄一、蒔田は一家失踪事件の謎に迫る望月麻希を演じる。インタビューでは、主演を務める江口洋介とヒロインの蒔田彩珠に、撮影時のエピソードやお互いの印象について話を聞いた。(取材・撮影=村上順一) 【動画】【第1話まるごと無料配信】連続ドラマW「誰かがこの町で」 ■現場で作りあげられた役 ――お二人は『忍びの家 House of Ninjas』(以下、『忍びの家』)で共演されていました。再びの共演、いかがでしたか。 江口洋介 台本を読んで、蒔田さんが望月麻希を演じると聞いて、『忍びの家』を撮影していた時の彼女の目を思い出して、撮影が楽しみになりました。結果すごく良い時間を共有できたと思います。 蒔田彩珠 こんなにまた早く共演させていただけると思っていなかったので、撮影をとても楽しみにしていました。『忍びの家』では、江口さんと親子関係だったというのもあったので、私の中では江口さんは明るいという印象だったのですが、今回は内容が重めということもあって、前回とのギャップを強く感じました。その姿を見て改めてすごい俳優さんだと思いました。 ――忖度と同調圧力の恐怖を描いた作品ですが、脚本を読まれてどのような感想を持ちましたか。 江口洋介 とある町で起こった集団における同調圧力と忖度の恐怖を描いた社会派サスペンスという謳い文句を見て、やってみたいと思いました。今までWOWOWさんとは社会派な作品、政治的なことや企業に関するものが多かったのですが、今回はこれまでとはちょっと違ったお話だったので、地上波ではなかなか体験できないストーリーだなと思いました。 ――撮影はいかがでした? 江口洋介 今回、僕は説明的なセリフが多いんです。日本家屋で正座しながら「あの副地区長が~」とかずっと喋っている(笑)。これは大変だぞと思いながら、なるべく誇張した芝居をせず、内容が明確に伝わるように意識して取り組んでいました。 ――蒔田さんは脚本を読まれていかがでした? 蒔田彩珠 ドラマは一つの町で起こっていることですが、例えばマンションだったり、集団で暮らすところなど、こういったことはどこにでも起こり得ることなのではと思いました。望月麻希は自分の過去、家族について調べたいと思う行動力のある人物だったのですが、私が今までにあまり経験したことがない設定でした。想像しながら自分の過去にフォーカスしながら役作りをしました。また、衣装合わせが役を知る上でとても重要でした。メイクもすごくこだわっていたので、服装などから麻希の人物像を監督と作っていきました。 ――クランクイン前に準備されていたことはありましたか。 江口洋介 そんなに大きな準備というのはなくて、後半で登場する長ゼリフを頭に入れることでした。とてもしっかりした台本だったので、それを覚えることが重要でした。そうすることで、だんだん真崎という人間像が出来上がっていったと思います。きっとキャラクターを掴むのは、キャスト全員が大変だったと思います。 蒔田彩珠 私も事前準備というよりは、実際に現場に入ってからの方が役作りは大きかったです。一番最初に撮影したのが、江口さん演じる真崎と出会うシーンで、それはとても長いシーンだったのですごく大変でしたが、そこから役を掴んでいきました。 江口洋介 最初のシーンからこんなにも大変なのかと思いました(笑)。例えば僕がおしぼりをわざとポーンと投げて置くといった、乱雑な性格に見えるところなど、細かいところなのですが、そういう積み重ねから役が形作られていきました。 ――現場での雰囲気はいかがでした? 江口洋介 とても重いストーリーなのですが、それに反して現場は和気あいあいとした雰囲気で、冗談を言い合いながら毎日楽しく進みました。 蒔田彩珠 本作はサスペンスで、『忍びの家』の時とは江口さんも違う雰囲気だったので、ちょっと構えていたところもあったのですが、みんなでいい作品にしたいという気持ちが一つとなって撮影していたので、すごく居心地のいい現場でした。 ――共演者の方々とはどんなことを話されましたか。 江口洋介 喜久子を演じる鶴田真由さんもセリフが大変だったので、「どういう風に覚えているんですか?」とか、「俺も大変だから」といった話をしたり、大塚寧々さんはあまりの大変さに「私、ちょっと気が滅入るわ」なんて言っていたのを覚えています(笑)。また、台本を読んで気になっていたけど、自分が撮影に関わっていないシーンもあったので、「あそこのシーンはもう撮ったの?」とかいろいろ聞いたりしていました。 ■民宿「源泉館」のシーンはホッとできる場所 ――印象的だったシーンは? 江口洋介 麻希に対して初めて怒るシーンです。信頼しているからこそ怒るんだろうなと思いました。「本当の父親みたいだな」なんて言われながら、僕も自分の娘のような感じで接していて、そういったところがうまく積み上げていければいいなと思いました。 蒔田彩珠 ラブホテルの前で拉致されそうになるシーンは、尾美(としのり)さんが本気で私を怖がらせてくださったからこそ、できたと思います。1人の力ではどうすることもできないことを実感するシーンでした。そこは麻希が変化していくシーンだったので、すごく印象に残っています。また、でんでんさん演じる近藤利雄が経営する民宿「源泉館」のシーンは、ホッとできる場所だったので、すごく楽しかったです。 江口洋介 そうそう。「源泉館」には暖炉もあって、真崎たちの拠点となる場所ですが、監督は最初そういった計算あんまりされていなかったみたいです。暖炉のおかげで現場がすごく暑くなって、みんな顔を火照らせながらやっていて、スタッフさんもその熱気から「空気の入れ替えをします」なんて窓を開けたり(笑)。 ――お互いのお芝居で印象に残っていることは? 江口洋介 麻希に親の写真を見せるシーンがあるのですが、真崎はそういった良いことをすることに慣れていない。写真を見せたはいいけどその場にはいられなくて、ちょっと離れるみたいな。「親とよく似ている」と麻希に話すのはとてもデリケートなシーンだと思ったので、そこでどういった芝居をやってやろうかということより、本番では自然体を大事にしていました。その時の麻希が母親にだんだん似ているように見えてくる。ドラマを観ている人もそう感じると思うんだけど、望月良子を演じる玄理さんが蒔田さんの実の母親に見えてきて、そこが切なくもあり、思い出深いシーンになりました。 蒔田彩珠 「源泉館」が襲撃された時に江口さん演じる真崎が立ち向かっていくシーンです。私は部屋の中にいるのでちゃんと見れていなかったのですが、外に出て立ち向かって行く姿がとてもかっこいいなと思いました。真崎は麻希が唯一心から頼れる大人だったので、そこでちゃんと頼れるという確信、この人について行こうと思えるシーンでした。あのシーンも時間のかかった長いシーンだったのですが、江口さんは最初から最後まで変わらないテンションで、お芝居をされていたのも印象に残っています。 ――江口さんが町の人たちから石を投げつけられるシーンは、見ていてとても苦しくなりました。 江口洋介 あのシーンが演じていて一番怖かった。最初の方に外国人が石を投げつけられるシーンがあって、その後に僕らが石を投げつけられるという流れがあります。さらに事件が解決に向かっていく中で、一人の人間が殴りかかって来るのですが、気持ちの上では同調圧力に逆らっても、その怖さや大きさというのは、あの一発の拳にあると僕は芝居をしながら思いました。絶対に立ち向かいきれない怖さが世の中にはたくさんあると思います。だから戦争が起こったりもする。人間はこんな時どうする?、自分だったらどうするのかと考えたのですが、受け入れるしかないという感じでした。 ――それぞれ役を演じられてみて、ご自身と似ているなと思った部分はありますか。 江口洋介 いつも演じる役が自分と似てるとか似てないとかは考えたことはないんです。それは自分のことをそんなにわかってないってことなのかもしれないですけど(笑)。真崎はつらい過去がある男なので、自分には想像もつかないなと思いながらやっていました。また、麻希の母親である望月良子役の玄理さんの存在が、僕のお芝居にすごく影響していたと思います。他者の存在に影響を受けることは普段からあります。同調圧力に対して良子が一人で立ち向かっていくのですが、その姿に僕も影響されて真崎をやれたところもありました。 蒔田彩珠 私は割と人に頼ってしまうので、麻希のように人を信じられない、頼れないというところは自分とは違うのかなと思いました。なので、自分とは違った性質の役を掘り下げていくのはとても難しい作業でした。 ――お互いのお芝居をみて、役者としてどんな魅力を感じましたか。 江口洋介 『忍びの家』のときはすごく自然体で話してくれて、いい意味で芸能界の匂いがしないという印象で、女優さんとしてこのまま行ってほしいなと思いました。すごく家族に愛されていると思いましたし、守られているものもいっぱい見えました。『忍びの家』で父親役をやったからそういう目線だったのかもしれないのですが、今回は作品、役的にどうなるのかなと思ったけど、ちょっとうつむいた時にみせる影みたいなものも表現できるし、今日も全然違う印象で、日に日にどんどん成長しているので楽しみな俳優さんです。 蒔田彩珠 常に周りの俳優さんの意見を聞いて、このシーンをどうしたいのかというのを気にかけてくださっています。自分の意見をしっかり表現できますし、受け止めてくださる。お芝居はもちろんなのですが、それ以外の部分での立ち振る舞いがすごいなと思いました。 江口洋介 本当は僕、場を仕切るようなタイプではないんです。監督という立場もそうですし、撮影というのはみんながその場をどう作っていくのかという仕事でもあるので、みんなの“芝居がノル”にはどうしたらいいか、というのは自分も含めていつも考えています。 ――さて、お二人はバイクが好きだったり、ギターを弾かれたりと共通点がありますよね。 江口洋介 そうなんです。以前ガソリンスタンドで撮った写真を見せてもらったんだけど、ちゃんと自分のスタイルを持っていて嬉しくなりました。昔はそういうのを隠している人もいたんだけど、蒔田さんは出会ったときからすごくオープンで、自由に育てられているんだなと思いました。もしかしたらそれも時代なのかもしれませんが、そういうのは大事にした方がいいよなと思いました。 ――最後にお二人が役者として活動していく中で、お芝居やエンタメの変化はどのように感じていますか。 蒔田彩珠 表現できる場所が増えているので、こうあるべきとかこうなるべきだというのはないと思っています。お芝居もそうですし、作品の内容だったり、地上波では難しいことも配信ならば挑戦できる時代なのかなと思います。また、見る人も増え、意見や感想も増えていくので、とても場が広がっていると感じています。 江口洋介 芝居は江戸時代から歌舞伎があって、河原乞食みたいな世界があったりするのですが、今はアウトプットも増えていていろいろあるんだけど、僕らがやっている演技という意味では何も変わっていないと思います。俳優一筋じゃなくても、俳優をしながら音楽やカメラマンをやったり、いろいろあっていいんじゃないかなと思っています。 ――活動の形態もどんどんマルチになっていってますよね。 江口洋介 世の中の状況がそうだと思うし、カリスマ性に人が熱狂する時代ではなく、今は人間性の時代かなと。昔は隠しているところもあったけど、その人が何をやっているのか知りたくなったり、俳優やエンタメもそういうところを見せていく時代になっていると思います。 (おわり) <江口洋介> ヘアメイク:中嶋竜司(HAPP'S.) スタイリング:伊藤省吾 (sitor)/ Shogo Ito(sitor) <蒔田彩珠> ヘアメイク:山口恵理子 スタイリング:小蔵昌子 【作品情報】 タイトル:「連続ドラマW 誰かがこの町で」 放送・配信:2024年12月8日(日) 午後10時スタート(全4話) 放送:毎週日曜午後10時~ ※第1 話無料放送 【WOWOW プライム】【WOWOW4K】 配信:第1話放送・配信後、全話一挙配信 【WOWOW オンデマンド】 出演:江口洋介 蒔田彩珠 ほか