「匿名宝飾店」を仕掛けた4℃、商品のクオリティで勝負したブランド戦略
2023年秋、原宿キャットストリートBANKGALLARYに期間限定でオープンした体験型ジュエリーショップ「匿名宝飾店」。ブランド名を一切明かさず、さまざまな手法でジュエリーの品質やつけ心地の良さを体験してもらうという、ユニークな手法で注目を集めた。実はそのブランドこそ国産ジュエリーブランドの先駆的存在である「4℃(ヨンドシー)」であり、背景には製品のクオリティへの自信と原点回帰の思いがある。大成功を収めた企画を終え、クリスマス・新年商戦を前に、同ブランドの販売促進課の課長、神島涼子氏にお話を伺った。
認知率が8割超えのブランドだからこそ、本当の体験価値を提供できる機会に
――「匿名宝飾店」はジュエリーファンだけでなく、マーケティング界隈でも大きな話題となりました。なぜあえて“ブランド非公開”という手法を取られたのでしょうか。
神島氏(以下、敬称略): 創業50周年という節目に、原点に立ち返り、改めて4℃のジュエリーが持つ“本来の魅力”をお伝えしたいと考えました。4℃がジュエリーづくりをはじめた頃から変わらない「モノづくりへのこだわり」を、先入観がない「匿名」の状態で五感を通して体験していただきたい。ジュエリーそのものと向き合える時間を提供したいと社内・外のメンバーとともにディスカッションを重ねました。
4℃のジュエリーはどのブランドにおいても、「お客様の肌につけていただいて初めて完成するもの」という考えでつくられています。つまり、主役はジュエリーではなく、あくまでもお客様。似合うジュエリーをまとうことで、その方の肌や表情を美しく見せ、個性を輝かせます。そこで、お客様がご自身に似合うジュエリーを楽しみながら試着できるよう、感性に訴える体験の場として組み立てました。 ――SNSや他メディアでもかなり話題になっていました。「匿名宝飾店」にはどんな方が来場していましたか? 神島: おかげさまで20代を中心に幅広い年代の方々にお越しいただきました。お一人ではもちろん、カップルやご家族、ご友人同士という方も多く、いろんな楽しみ方をされていらっしゃいました。お店に足を運んでくださった方による“口コミ”で日を追うごとに入場制限が必要になる時間が増え、最終日の来店は480名にもなりました。最終的には5,500名以上のお客様がご来店され、「私も行きたかった」という声をたくさんいただきました。 ――大盛況でしたね。「匿名宝飾店」でのお客様の反応や変化など、ブランド全体への影響をどうでしたか? 神島: ブランドとの近さによって、それぞれ反応が異なる印象がありました。まず、4℃のジュエリーをご存知の方は、新しい取り組みとして興味を持ってくださり、より積極的に楽しんでくださった感があります。一方、ジュエリーそのものに触れる機会が少ない、4℃との接点があまりなかったという方は、「気軽に体験できてジュエリーに興味が湧いた」「自分に合うジュエリーが見つかった」というように、ジュエリーや4℃との出会いを新鮮に受け取られていました。 また、全体的なアンケート結果では、「シンプルで洗練されたデザインでよかった」「アクセサリーの肌馴染みが良かった」など好意的なコメントをたくさんいただきました。「4℃のイメージが変わった」という人が83%、「正体は意外だった」という人が78%と、ブランドへの印象が変わった方も多くいらっしゃいました。 ――「ブランドへの印象が変わった」とのことですが、もともと4℃は一般的にはどのようなイメージで受け取られていたのでしょうか。 神島: ブランド調査においては、4℃は20歳~59歳の女性の認知率は約9割と高く、「生涯に寄り添っていけるジュエリーブランド」としてイメージいただいていることが伺えます。実際、「ファーストジュエリー」としてお小遣いで購入したり、ご両親や恋人から贈られたりという経験も多くの方が語られていて、オン&オフで日常的に着用するジュエリーとしてはもちろん、エンゲージリングやマリッジリング、記念日のリングなどのハレのジュエリーとしてもお選びいただいています。 このイメージはおそらくメインブランドである「4℃」のイメージが強いと思われますが、実際にはさまざまなブランドがあり、それぞれに特徴があります。たとえば以下です。 ・ canal4℃……本物志向でありながらユニークなコラボレーションなども展開 ・ cofl by4℃……リサイクルメタルやラボグロウンダイヤモンドなどを使用したサスティナブルブランド ・ 4℃ HOMME+……ジェンダレスで多様性のあるデザインが特徴 4℃への信頼や愛着はそのまま受け継ぎながらも、イメージを固定化することなく、ブランドの進化や新しい側面も知っていただきたいと考えていましたのも、今回の「匿名宝飾店」の開催にもつながっています。 ――認知度が高いブランドだからこそ、部分的なイメージが突出したり誤解が広がったりしやすい懸念もあります。2020年頃にはSNSでややネガティブな表現をする人も見受けられました。そんな中で今回の取り組みが成功したのは、しっかりとしたモノづくりが根底にあったからなのですね 神島: 当時話題になったきっかけの投稿や流れを見てみると「年齢や好みに合わないと感じるものを贈られてしまった」というミスマッチの体験であり、決してブランド批判ではなかったのです。でも、SNSというメディアで拡散したときに、「ファーストジュエリーとして人気がある」という部分的なイメージがネガティブに捉えられてしまった。それがSNSを含めたメディアでブランドについての意見が可視化され、イメージが固定化されてしまうということもありました。