米中貿易戦争で米国も中国も大打撃は受けていない
●米国の統計指標
次に米国側の統計に目を向けると、関税引き上げにもかかわらず、物価統計に大きな動きが観察されていません。 昨年来、米国は中国製品に対する関税を段階的に拡大してきましたが、関税引き上げの影響が直接的に現れるはずの物価統計は企業段階でも消費者段階でも大きな変化はみられず、最近はむしろインフレ率の低下が問題視されています。米企業物価と消費者物価は双方とも2%近傍で安定しています。個別の品目を細かく見れば、関税によって上昇しているモノ(たとえば洗濯機)もありますが、全体として物価上昇率が高まっていないのは事実です。 これについて、内閣府発行の「世界経済の潮流 2019年」は「2018年に実施された追加関税措置による課税規模はアメリカの対GDP比で0.16%であり、2019年度に見込まれる減税規模(対GDP比1.3%)の8分の1程度に過ぎない」「他国からの代替輸入に切り替えて対応している」との見解を示しています。中国製品の輸入関税が引き上げられたとしても、その規模は思いのほか小さく、また台湾など中国以外の国から調達先を変えることで、米国の消費者に直接的な影響が出ていないとみられます。 自由貿易を是とする世界の共通認識に反する関税引き上げは、しばしば「米国経済、特に消費者に大打撃」といった具合に、その影響が誇張される節がありますが、関税発動から1年が経過した現段階において、当初懸念されていたほどの大打撃は起きていないようです。
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