思想家でもあった歌人・与謝野晶子が「働く喜びは金銭には換えられない」と記すわけ
与謝野晶子といえば、「やは肌のあつき血汐にふれも見で……」といった、歌集『みだれ髪』の華麗で奔放な恋のイメージを抱く人が多いのではないでしょうか。 しかし、晶子は文学の世界のみならず、社会評論の世界でも華々しく活躍しました。 科学の世紀にまなざしを注ぎ、対等な男女関係を求め、時には政府を鋭く批判した晶子の言葉は、今の時代の私たちをも勇気づけるものです。(「はじめに 美しく、力強い言葉の数々」より) 『与謝野晶子 愛と理性の言葉』(与謝野晶子 著、松村由利子 編集、ディスカヴァー・トゥエンティワン)にこうあるとおり、明治末期から昭和初期にかけての20年余りにわたる期間に、与謝野晶子は思いのほか幅広いテーマについて多くの評論を執筆しました。 本書の編者によれば、そこには2つの大きな要因があったようです。 まず1つは、新聞、雑誌という活字メディアの最盛期であったこと。加えて当時は女子教育の必要性が認識され、さまざまな女性誌が創刊され、新聞にも女性読者をターゲットにした「婦人欄」「家庭欄」が創設された時代でもありました。つまりメディアにとって、そうしたニーズに応えられる書き手としての彼女は魅力的な存在だったわけです。 もう1つは、晶子自身がいろいろなことについて広く問題意識を持っていたこと。 たとえば民主主義の根幹である「自由と平等」を非常に大切なものと考え、表現の自由、思想の自由が保障されない時代状況に憤りを感じずにはいられなかったのです。 そんな晶子について、「社会的な平等、とりわけ男女の平等を彼女ほど切実に求めた人もいなかったかもしれない」と編者は記しています。 本書の根底にあるのも、美しい生き方を追い求め、力強く語った与謝野晶子のことばを少しでも多くの人に届けたいという思い。そこで15冊の評論集を中心としたなかから、現代人にも強く響くであろうメッセージを抜き出しているのです。 きょうは仕事に関する考え方がまとめられたII「働く喜びは金銭には換えられない」のなかから、5つのことばを抜き出してみたいと思います。