日本経済「失われた30年」の根本原因か…バブル崩壊後、勤勉な日本人が一斉に描き直した「人生設計」の恐るべき影響力【経済評論家が解説】
そして、バブル崩壊後の不良債権処理もまた…
バブル崩壊後、銀行は巨額の不良債権を抱えました。正直に申告すれば銀行が赤字決算になって経営者が恥をかく…とでも考えたのでしょうか、多くの銀行が不良債権隠しをしていたようです。時効なので書いてもよいでしょう(笑)。 各銀行にとって合理的なのは、恥をかいてでも、急いで担保不動産を競売することだったはずです。粉飾決算はいけない、というのみならず、不動産が値下がりする前に競売して少しでも多く回収するべきだったはずです。 問題は、これが合成の誤謬のリスクとなっていたということです。もしもすべての銀行が不良債権を正直に申告し、借金が返せない借り手から担保不動産を取り上げて競売していたら、日本中の土地が競売されて買い手がつかず、不動産が暴落してすべての銀行が破産して、日本経済も破綻していたかもしれないのです。 あるいは、銀行が巨額の赤字を計上しているのを見た預金者たちが一斉に預金を引き出すことによって銀行の資金繰りが破綻して倒産し、日本経済の破綻を招いていたかもしれません。 「有識者」たちは、銀行が不良債権を隠していることを批判していました。筆者にいわせると、彼らは合成の誤謬の怖さに気づいていなかったか、気づいていても「正しいことは正しいのだから、正しく行動すべきだ。その結果が悲惨なものであろうと」と考えていたのでしょう。「正しいこと」と「よい結果」が両立しないときにどうすべきか、価値判断の分かれるところだったのかもしれませんね。 当時、銀行には大蔵省検査が定期的に入っていました。いまの金融庁検査です。検査官は、容易に銀行の「粉飾決算」を見つけることができたはずなのですが、極端な事例を除いては「お目こぼし」をしていたのだろう、と筆者は考えています。 それを「監督官庁と業界との癒着だ」というのは簡単ですが、筆者は大蔵省を高く評価しているので、単なる癒着だったとは考えていません。彼らは「不良債権をすべて厳しく指摘したら、日本経済が破綻してしまうだろう。それを避けるためには、許容範囲ギリギリまで見逃して、絶対アウトなものだけを指摘するに止めるしかない」という高度な政治的判断をしていたのだろう、と考えています。 上記は筆者の単なる想像であり、当時の大蔵省幹部に聞いて見たことはありません。もしも筆者が正しかった場合、聞かれた方も困るでしょうから(笑)。 今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。 筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。 塚崎 公義 経済評論家
塚崎 公義