【対談】石井妙子氏×與那覇潤氏 事件史で振り返る平成 「虚」から「実」への転換を
與那覇 昭和期にもあった集団自殺は、平成にSNSが普及する中で拡大し、それに便乗して起きたのが「座間9人殺害事件」(17年)です。犯人の白石隆浩死刑囚は、ツイッター(現・X)で自殺願望がある人を集め、凶行に及んだ。一人で自殺するのではなく「他に死にたい人いませんか」とネットでつぶやくのは、死ぬ時だけでも、似た悩みを一緒に分かちあえたという「承認」がほしいのでしょう。それにつけ込んだ、卑劣な犯行と言えます。
「個人」「女性」事件の裏には
─平成は大きな「集団」というより、「個人」が起こす凶悪事件が多かったように思います。 石井 昭和は若者が思想に共鳴して団体をつくり、世の中を変えるのだというケースが多かった。「あさま山荘事件」や「よど号ハイジャック事件」(1970年)がその典型です。平成でも、オウム真理教による「地下鉄サリン事件」(95年)がありました。これらに共通するのは、経済的・宗教的思想が根底にあり、ある種のエリート、高学歴の若者たちが犯行に及びました。ただ、オウム事件以降、大きな集団のようなものは、もはや若者にははやらないのか、見られなくなりましたね。 與那覇 昭和は「イデオロギーが生きている時代」で、思想の共有を通じて密度の濃いつながりをつくりやすかった。対して、冷戦の終焉で共産主義も反共主義も無意味になり、平成はむしろ「イデオロギーから個人が自由になれる時代」だと言われました。いま振り返ると、オウム事件は両者の過渡期の現象ですね。つまり、本人たちの中ではイデオロギーを持っているけれど、端から見ると本気なのか、よく分からないパロディーにしか映らない。 ─平成は女性が凶悪犯になるケースも増えました。 石井 女性の事件に関して、平成初期で象徴的なのは「東電OL殺人事件」(97年)です。被害者は東京電力に総合職として入社し、勤務終了後、売春をしていました。「売春は、金銭的に困窮している女性が行うもの」という常識が崩れました。被害者の女性は、恵まれた家庭で育ったエリート管理職。彼女が事件に巻き込まれたことに世間は衝撃を受けました。 ※こちらの記事の全文は電子書籍「事件・事故で振り返る平成全史 令和を生きるために知りたいこと」見ることができます。
野口千里