米国株急落、市場混乱時に投資家が避けたい思考パターン
ダウ工業株平均が2日合計で1378ドル下落するなど米国株の急落しています。「世界同時株安」の様相を帯びてきたともいわれますが、こういった市場混乱時にどういった教訓があり得るのか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
2月のパターンと似ている構図
10月10、11日のNY市場で株価が急落したほか、投資家の不安心理を映し出すことで知られるVIX指数が急上昇し、同時に景気に敏感とされる原油やアルミといった商品市況も崩れました。この間、円相場のUSD/JPYは1ドル114円近傍から112円近傍へと水準を切り下げ、日経平均は800円程度下落しました。本稿では、このような海外市場の混乱が、今後の日本の金融市場に与える影響を考えてみたいと思います。 2日間合計でNYダウは1378ドル(▲5.2%)下落しましたが、このきっかけとなったのは米長期金利の上昇です。最近発表された経済指標(雇用統計等)がいずれも強めの結果だったことから、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測の高まりと相まって金利に先高感が生じ、米10年金利は9月末の3%近傍から10月8日には3.25%近傍まで水準を切り上げました。金利が上昇すると、債券との比較で株式の魅力が後退します。安全資産の代表格である米国債で3%を超える利回りが確保できるなら、リスクを負って株式に投資する必要性が乏しくなるからです。
こうした市場変動の基本的構図は今年2月の事例と似ています。簡単に当時を振り返ると、事の発端は2月2日発表の雇用統計で平均時給が予想外に上昇したことでした。それまで2.6%近傍で推移していた米10年金利は、それをきっかけに上昇を開始し、数日経過後には3%の到達が意識される水準へ跳ね上がりました。すると、米国株は2度にわたって4%程度急落し、この間VIXは最大37.3まで上昇しました。 そうした下、米長期金利上昇(≒日米金利差拡大 ※日本の10年金利は0%程度に固定されているので米金利上昇は日米金利差拡大と同義)にもかかわらず、USD/JPYは110円近傍から106円近傍へと下落しました。 この2月の教訓を活かすという点において筆者が強調したいのは、市場が混乱している局面で「日米金利差拡大→円安」という思考パターンに距離を置くことです。一般論として、日米金利差が拡大すると、低金利の円より高金利のドルが人気を集めることから、円売り・ドル買いが活発になるとされていますが、こうした動きは投資家のリスク志向が安定している時に限られます。逃避需要を集めやすい円は、投資家のリスク回避姿勢が強まる局面においては、例え日米金利差が拡大したとしても買われる(上昇する)傾向にありますから、円高になることが多いです。 したがって、米国株が不安定な動きを続け、日本株もそれに付き合わせている状態では、米金利が上昇しても円安に繋がらず、寧ろ円高になりやすいと考えられます。
---------------------- ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。