水原一平氏「司法取引」で犯罪を自白へ? 日本で導入する場合の問題点とは【弁護士解説】
日本で自己負罪型の司法取引が導入されるべきでない理由…「取り調べ依存」の実態
このように、日本では「捜査協力型」のみが認められ、かつ実際に行われた件数も少ない。これに対し、司法取引の本場ともいえるアメリカでは、水原氏のケースをはじめ、司法取引が頻繁に行われている。なぜか。 川﨑弁護士によると、アメリカと日本の刑事司法制度における被疑者・被告人の権利保障の違いが関連しているという。 「アメリカでは、日本ほど身柄拘束や取り調べが重視されていません。また、被疑者の権利、たとえば黙秘権や弁護人の立ち会いを求める権利が強力に保障されています。 まず、身柄拘束については、今回の水原氏のケースを思い出してください。被害額がきわめて大きいにもかかわらず、保釈金2万5000ドル(約380万円)と設定されるのみで身柄拘束から解放されています。 また、被疑者が黙秘権を行使すると言ったら、あるいは弁護士の立ち会いを求めたら、その時点で取り調べがストップします。捜査機関はその場合、他の方法で証拠を収集することになります。被疑者の権利保障が強く、捜査機関と対等に近い関係が形成されているのです。」(川﨑拓也弁護士) つまり、アメリカでは、被疑者の権利がかなり強く保障されているという。アメリカで司法取引がよく行われている背景には、このような前提がある。 では、日本ではどうか。川﨑弁護士は、日本の刑事司法制度においては被疑者の防御権の保障が十分ではないと指摘する。 「日本では昔から、被疑者の取り調べや身柄拘束が重視・多用されています。被疑者の身柄を拘束し、取り調べをすることで、自白を引き出すのです。 被疑者には一応、憲法上の権利として黙秘権が保障されています。しかし、被疑者が黙秘権を行使しても取り調べは終わりません。『説得』という名目の下、取り調べ自体は続けられます。 また、取り調べの際、弁護人の立ち会いを求める権利が保障されていません。つまり、被疑者は孤立無援の状態で取り調べを受け続けなければならないのです。 さらに、日本の刑事司法制度は『人質司法』とよばれます。自白しなければ、保釈にならない、つまり自白するまで身柄拘束が続いてしまうのです。それが自白の偏重につながり、冤罪を生むというリスクが指摘されています。 このように、日本では身柄拘束を伴う取り調べに依存する度合いが高くなっているのです。」(川﨑拓也弁護士)