水原一平氏「司法取引」で犯罪を自白へ? 日本で導入する場合の問題点とは【弁護士解説】
日本で「自己負罪型」の司法取引を導入する上での問題点
これらの違いが、司法取引のあり方にどのような影響を及ぼすのか。まず、アメリカでは、司法取引が被疑者・被告人と捜査機関の間で、文字通りの「取引」として機能するという。 「アメリカの場合、前述の通り、被疑者の地位は強く保障されています。被疑者が黙秘権を行使したらその時点で取り調べは終わるし、保釈もあっさり認められます。 保釈金の支払いさえ必須ではありません。法廷で宣誓させるだけで済ませることもしばしばです。宣誓しておいて逃亡したら法廷侮辱罪に問われますが。 また、公判の前に捜査機関から証拠を開示してもらえることがあります。日本における勾留判断と同様の場面(Initial Appearance)で、すでに一定の証拠開示があり、それをもとに身柄拘束継続の可否が判断されます。 そして、柔軟に保釈を認める結果、被疑者・被告人は自由の身になった状態で、争うか争わないか、司法取引に応じるか否かを決めることができます。弁護士の感覚としては、和解に応じるか否かを弁護士と共に判断する民事裁判とそれほど変わりません。 いわば、捜査機関と対等・フラットな立場で、文字通りの『取引』ができるということです。」(川﨑拓也弁護士) 川﨑弁護士は、日本で今回の水原氏のような「自己負罪型」の司法取引を導入するのは、現状ではきわめてリスクが大きいと指摘する。 「日本では被疑者は事実上、取り調べの対象(客体)として扱われています。また、保釈も自白と引き換えというのが実情と評価せざるをえません。 このような状況で『自己負罪型』の司法取引を導入したら、大変なことになります。捜査機関は延々と取り調べを行い、それでも自白がとれなければ、司法取引を持ちかけるでしょう。無実であっても、身柄拘束が継続していれば、どんなに不利な条件でも飛びつきたくなるのは当然です。昔から、虚偽の自白を誘発するおそれ、黙秘権を侵害するおそれがあると指摘されています。 これらのリスクは、被疑者・被告人の立場が強く保障されているアメリカでさえ指摘されているのです。 もしも今後、日本で『自己負罪型』を導入するならば、少なくとも『人質司法』の問題が解消されること、黙秘権の実効的な保障と弁護人立会権の導入が最低条件です。 現行の刑事訴訟法をはじめとして、刑事司法制度自体を大幅に改める必要が生じます」(川﨑拓也弁護士) 水原氏の事件で司法取引がクローズアップされたことは、期せずして、日本の刑事司法制度が抱える危険性を、改めて強く認識させることになったといえそうである。
弁護士JP編集部