「空のF1」で悲願の初Vを果たした室屋の逆境人生
時速350キロを越える3次元のモータースポーツで「空のF1」とも称されるレッドブル・エアレースの千葉大会の本戦が5日、千葉市の幕張海浜公園の特別コースで行われ、日本人パイロットとして、ただ一人シリーズにフル参戦している室屋義秀(43、Falken)が、2009年に参戦以来、悲願の初優勝を果たした。レッドブル・エアレースは途中休止のシーズンもあったため5シーズン目にしての頂点だ。 前日の予選が、強風と高波で中止。この日の本戦の組み合わせは、現在のランキングで決められ、1回戦にあたる「ラウンド・オブ・14」で、11位の室屋は4位のピート・マクロード(32、カナダ)と対戦した。史上最年少の優勝経験のあるパイロット。タイムを競う、負けたら終わりの1対1の勝ち抜き方式(敗者の中で最速タイム者だけは次へ進める)のレースで室屋は、いきなりトラブルに見舞われる。 スモーク(演出のための煙)が出なかったため1秒のペナルティを課せられたのである。 「レースが終わるまで知らなかった。タイムを見て伸びていないなと思ったけれど、スモークが出ていないと知って、あれえーとなった。前大会でもスモークポンプが壊れたので、直して万全だったはずが、まさか、まさかだった」 実は直前の第2戦スピルバーグ大会(オーストリア)でもスモークの出ないアクシデントがあった。 だが、千葉の難解なコースが味方になる。エアレースは、パイロンと呼ばれる25メートルの高さのゲートを水平に通過しながら、ほぼ直線コースを約2往復してタイムを競うのだが、折り返し地点では、通称、幕張ターンと呼ばれるバーティカルターン(垂直に宙返り)を行わねばならない。そのゲートでマクロードが「10」Gを超えるオーバーGのミスを犯して失格となったのである。エアレースは、パイロットの安全性を確保するため、速度制限、G制限が設けられている。 ラッキーな形で「ラウンド・オブ・8」(準決勝)に駒を進めると同時にハンガー(格納庫)で修理作業がスタートした。 「1時間でメカニックが直してくれた。直してくれた1秒がなければ、ファイナルにあがっていない、すごい集中力で直してくれた」。もしスモークが出ないままレースの臨むなら1秒のハンディを背負うことになる。 “準決勝”の相手は「ラウンド・オブ・14」のタイム順に上、下で組み合わされるが、6位通過の室屋は、ランキングトップで優勝候補のマティアス・ドルダラー(45、ドイツ)とのマッチングとなった。最大の関門である。だが、室屋は、「全員がメンタルの強い、化け物みたいな人ばかり。勝とうとしても勝てない。実力は100パーセントまでしか出ない。誰と当たるかは関係ない。力を出せるようにタイムだけに集中していこう」と、落ちついていたという。 今度は、スモークもちゃんと出て1分04秒610の好タイムでフィニッシュ。対するドルダラーは、途中経過では、室屋のタイムを上回っていたが、意識しすぎたのか、ゲート8、9にある、もう一箇所のハイGの危険性のあるゾーンで、オーバーGのミスを犯して失格となった。