「ダンスは主役になれる」 RAB けいたん/榊原敬太が語るアニソンダンスの可能性、信用と革命のシーン作り
2024年10月4日に日本武道館公演を成功させたダンスチーム・REAL AKIBA BOYZのダンサーである、けいたん(榊原敬太)。彼はエンターテインメント企業のISARIBI株式会社のほか、グループ13社を率いるビジネスパーソンでもある。現役で板の上に立つ彼に現在のダンスエンターテインメントにおけるシーンをはどのように映っているのだろうかーーRABでの17年間の経験を踏まえ、これからの展望を聞いた。(日詰明嘉) 【ライブ写真】念願の日本武道館公演を成功させたダンスチーム・REAL AKIBA BOYZ ■「ダンサーが主役になれる世界線を作りたい」の真意とビジョンクリエイト ――REAL AKIBA BOYZ(以下、RAB)は念願の日本武道館公演を見事に成功させました。その後、周りの反響はいかがでしたか? 榊原敬太(以下、けいたん):来場してくれた保護者(ファン)はもちろん、それ以外のビジネス関係者にもとても喜んでいただけて、RABの価値を大きく高めてくれた公演だったと思います。僕は(カードゲームの)ポーカーエンターテインメント(株式会社EGP)の経営もしているので、プロポーカーの方たちも招待したのですが、「けいたんが踊るところ初めて見たよ」とか、「チャカさん(※RABの創始者)って知らないけど泣いた」とか言ってくれて(笑)。そういったダンスに詳しくない方も一様に「感動した」とおっしゃってくれて、自分がきっかけとなって、別の業界の人たちにもダンスというエンターテインメントが届いたことが何より嬉しかったですね。 ――武道館公演後にはX上で「バックダンサーをゴールにすんな」、「ダンスは主役になれるんだ」という発言をされ、後日「ダンサーが主役になれる世界線を作りたい」と続けられました。この発言の背景を教えて頂けますか? けいたん:これはかねてより思い続けてきたことでした。でも、中途半端なタイミングで発信しても意味がないと思い、ようやく武道館公演を実現したタイミングで表明したんです。 ――反応はいかがでしたか? けいたん:大勢のダンス関係者から「よくぞ言ってくれた」とか「そういうことなんですよ」と連絡をいただきました。もしかしたら反発されるかもと思っていたのですが、結果的にそれは杞憂でした。いい意味でのハレーションを生んだこと自体が嬉しかったです。 ――先の発言を含め、けいたんさんはダンスカルチャー全体を見据えて布石を打ってるわけですよね。 けいたん:そうですね。我々は様々なダンスのカルチャーを背負うダンスアーティストの“発明”をすることに重きを置いています。その中でもアニソンダンスにおいてはRABが先陣を切っていまして、それはありがたいことではあるのですが、競合がいないことが課題だと思っています。バンドシーンのように、各々がいい意味で競い合って、「●●系」と括られるぐらい盛り上がらないと、本当の意味でシーンは活性化しない。僕らRABをリファレンスにしたダンスアーティストが、他の事務所からも出てきてほしいと思っています。 ――RABのライブの大きな特徴の一つはダンサーが前面に出て、ボーカルや楽器隊がバックにつくという、従来のライブとは逆の形式です。ダンサーを前面に立たせるのは先ほどの信念に基づいたものだと思いますが、生演奏での公演はどのように発想されたのでしょうか? けいたん:理由としてはライブ感が欲しかったというのがありますね。単に音源をかけて踊るだけだと他のダンスイベントと差別化ができない。ただ、生演奏は従来のダンスバトルやラップバトルでもあった形で、それ自体はそこまで目新しい発想ではありません。それがアニソンのジャンルで行っているのが珍しいのだと思います。生演奏にしたのは実は逆転の事情で、オリジナル音源を使おうとしたときにアニソンは原盤の使用料がとても高かったから(笑)。この形式で開催し始めた時はコロナ禍の影響でお金もなくて、生演奏なら原盤使用料を払わずに済むだろうと。でもバンドで行なったら、実際もっとお金がかかりました(笑)。ただこのスタイルの公演が盛況で、RABの知名度が上がり、結果的に動画再生数もグンと伸びたんです。色々な意味で、コロナ禍は今の形に繋がる大きな出来事でした。 ――そうしたこれまでのいくつかのターニングポイントを、RABとして、また経営者としての側面から伺えたらと思います。 けいたん:まずは個人的に、RABとして忘れられないのは、ニコニコ動画に『ハレ晴レユカイ』のダンス動画をアップした2007年10月15日。1日で10万回再生と、当時としては信じられないくらいの大ヒットで。それに伴ってダンスバトルの動画も軒並み観ていただき、サブカルチャー系のイベント出演オファーが舞い込みました。その後、TV番組『スター☆ドラフト会議』(日本テレビ系)への出演があり、福原香織とRAB(以後、「FUNCTION6ch」と改名)として、音楽で最初のメジャーデビューも経験しました。その時のavexのプロデューサー/ディレクター陣との出会いも大きかったですね。 ――ここまでが2014年。今から振り返るとまだまだ序章でした。 けいたん:その後、2017年にソニーミュージックのSACRA MUSICというレーベルから『このアニソンで踊りたい~アニソン・ダンス・クラシックス 30+~』というアルバムをリリースするのですが、この時にプロデューサーである長谷川洋輔さんから教わったことも重要でした。次々に色々なことをインプットしてくれて、僕らの意識をガラッと変えてくれたんです。僕自身、 2006年頃にダンスで世界大会に出場した時から、「バックダンサーでは終わらないぞ」と思ってはいたものの、日本武道館という具体的な夢が彼とメンバーとの会話の中で生まれたことは大きかったですね。そして、10周年記念の中野サンプラザでのワンマンライブの後、11年目と12年目は伸び悩み、チームに疲れが出てきた中で採った施策が、新メンバーの加入でした。 ――現在のRAB ESPICEの3人ですね。 けいたん:やはり、それ以前と以後では意識が違いますね。それまではイベント出演、テレビ出演など、“現象”を軸に動いていたんです。でも以降はさらに年下のREAL AKIBA JUNIORZを作ったりと、メンバー軸で動くようになりました。そこで気づいたのは、RABのメンバーって、自分のためというよりは、他人のために頑張れる人だったということ。年も重ね、メンバーとしてハッキリと後輩ができたことで、それが日々の一つひとつに表れるようになりました。