「ダンスは主役になれる」 RAB けいたん/榊原敬太が語るアニソンダンスの可能性、信用と革命のシーン作り
アニソンダンスの強み=多様な音楽ジャンルを許容し世界に広がっているところ
――経営者としてのお話しもいただければと思います。けいたんさんはISARIBI株式会社の代表であり、RABが所属する株式会社アブストリームクリエイションをはじめ、グループ13社で経営者として活躍されています。 けいたん:もともとはダンサーとして出演する一方、ダンスの雑誌の編集者/ライターだったんです。と同時に、ダンススタジオの経営や秋葉原でバーを経営したりと、店舗系の経営者でした。それを別の会社に売却し、その会社にジョインした後に独立をしました。アブストリームは設立13年ですが、コロナ禍は非常に苦しくて……本当に倒産寸前でした。まず自分の報酬をゼロにして、続いて取締役もゼロ、退職金を渡してリストラを進め、8~9カ月かけて刻んで畳む計画を立てたほどでした。 ――それを経てのこの復活劇ですが、経営者ビジョンは変わりました? けいたん:以前とはガラッと変わりましたね。他人に頼ることを覚えました。自分たちだけで何でも行おうとすると人も育たないし、いたずらに慎重になりすぎる。冒険をしに行くためにも、周りの人数を増やさなければと思いました。先ほどの話のように、RABにはREAL AKIBA JUNIORZをはじめとした後進もいるし、『あきばっか~の』(年に3回川崎・CLUB CITTA'で開催される最大規模のアニソンダンスバトル大会)などダンスというカルチャーを広めていくミッションがあります。僕は社員をブレイクダンスチームのクルーとして考えている節があって、みんなを面白いことに巻き込んでいきたいと思うんです。 ――アニソンダンスのシーンに絞った場合、足りないピースは何だと思いますか? けいたん:世間の認知やその広がりと、“信用の獲得”だと思います。だからRABの武道館ワンマンの時は、フライヤーやプレスリリースを出す際に、逐一協賛会社の皆さんのロゴを掲載させていただきました。上場企業や誰もが知る有名企業が応援してくれていることを世間に示すことが信用に繋がると思ったからです。これはプロダンスリーグ『第一生命D.LEAGUE』のように、他のアニソンダンスバトルの大会でもできればいいなと考えているところです。今はまだ友達が友達を呼んでくる形式の延長線上に過ぎなくて、そうした社会的な地位の向上や“顔”を作らないと入口は広くならないのではないかと思います。それに関して言うと、毎年8月に開催する『あきばっか~の』の開催日は川崎のお祭りに必ず合わせているんですよ。 ――そうなんですね。コミケ(コミックマーケット)合わせなのかと思っていました。 けいたん:それも地方から来る人にとっては重要ですけどね(笑)。でも、川崎のお祭りの中にアニソンダンスバトルがある状況を作って、子供たちがいるところにダンスがあるという関係性を作ることが大事。それを長く続けていくと、社会に認められることに繋がっていく。そのきっかけづくりですね。ここまで考えてイベントを開催している人は、このシーンにおいてはそこまで多くないのが現状です。 ――それでいうと、池袋の『TOSHIMA STREET FES』(TSFes)もそうですね(※)。 ※毎年11月に池袋で開催されるアーバンスポーツの大会と体験会。ストリートダンスチームによるショウケースや、MCやDJによるバトルなども行われる。2024年にはこの中でアニソンダンスバトル大会も開催された。 けいたん:はい。そういう人目に触れる場で行なうのが大事で、ダンスの価値も向上する。そしてやっぱり、アニメ自体の価値がこの15年でどんどん上がっているのが大きいですよね。 ――J-POPシーンのメインストリームでアニメ主題歌を担当したことがない方のほうが、もはや少数派だと言えそうです。 けいたん:そうですよね。特にこのサブスク時代に世界に出ていこうと戦略を立てている方は、必ずといっていいほどアニソンと関わっています。それ以外で世界で売れているバンドとなると、かなり限られるでしょうね。 ――アニソンダンスバトルを観戦していて面白いのは、アニソンという括りでどんなジャンルでも踊るところで、広義の“アニソン”にはVOCALOIDなどの音楽合成ソフトの楽曲やVTuberのオリジナル曲も含まれ、その中で縦割りになることなく平和にシーンに落とし込めている“オタクカルチャー”の成熟も大きいと思っていて。 けいたん:「こうでなければいけない」ということがないですからね。ストリートダンスはどちらかというと、先に音楽ジャンルとダンスのスタイルが決まっていたから。ブレイクダンスはブレイクビーツ、ポップ(ダンス)はPファンク/Gファンク、ロック(ダンス)はソウル/ファンク、ヒップホップ(ダンス)はHIPHOP、ワックはファンクだし、DIGITZやタット(ダンス)はテックトランスやドラムンベース……と、音楽ジャンルに紐づいています。 ――『あきばっか~の』を現場で観ていて驚いたのが、イエスの「Roundabout」で踊っている人がいたことでした。アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』(BS11ほか)のエンディングテーマですが、プログレッシヴロックなんて踊りづらい音楽なのに、それでも踊るところが、アニメ&アニソン愛だなと思って。 けいたん:「踊れない音楽などない」という矜持がアニソンダンスバトルにはありますからね(笑)。 ――アニメが世界各地で流行していて、アニソンも広まっていて、ダンスは元から世界中にあるわけですから、世界中でもっとアニソンダンスが広まってもおかしくないと思うんです。 けいたん:最低限、スマホでサブスクを流して、あとは身一つでできますからね。ブラジルではもう結構な数のコンテストが開かれたりしています。ただ、あとは中国とシンガポールでちょっとあるくらいかな。それも僕らが行って啓蒙活動したことが理由の一つとしてあるかと思います。日本でもRABはそうやってきたわけですから(笑)。(涼宮)あつきはこれから『あきばっか~の』を1万人規模の会場で開催することを目指すと宣言していますから、これからもよりアニソンダンスがメジャーになるよう、色々と仕掛けていくつもりですよ。
日詰明嘉