名古屋ポーカー店店長の自殺は「パワハラと過重労働が原因」と遺族が提訴 店側は「失恋のショック」と反論 遺品には「身の毛もよだつ暴行動画」が残されていた
遺品のスマホに残っていた衝撃の暴行動画
この時点では悲しみを共有していたかのように見える遺族と店側。なぜこの後、対立を深めるようになったのか。きっかけは遺品のスマホから出てきた「動画」だった。母が語る。 「葬儀を終えて1週間くらいしてからのことでした。自宅に帰る長男が『ショックを受けるかもしれないけど見る?』と遥樹のスマホを渡してきたのです。長男と長女は2人で暗証番号を割り出し、ロックを解除していました。遥樹はLINEのKeepメモにその動画を残していたのです」 動画に映っていたのは、遥樹さんが亡くなる約1カ月前の10月18日深夜1時頃、防犯カメラが映した店内の様子だった。確かにショッキングな内容だった。 画面に出てくるのは、上着やスマホを手に取り帰り支度をする遥樹さんとテーブルに座って話し込む3人の男性だ。遥樹さんが帰り際、レジのある小部屋に立ち寄った時だった。突然、画面の左隅から水色のジャンパーを羽織った男性が現れた。 そして遥樹さん目がけて突進。向き合うや否や右足でキックし、右手でパンチ。しまいに壁に向かって突き飛ばしたのである。 その後は柱などに隠れてよく見えないが、男性が数回左手を振り回している様子が映っている。テーブルで様子を見ていた3人は心配そうに見守り、1人が立ち上がって小部屋へ近づいていく姿も。 その後も10分以上男性が「説教」しているような様子が残っていた。音声は入っていないが、身の毛がよだつような暴行現場を映した「決定的証拠」だった。 遥樹さんに暴力を振るっていた男性こそがA氏だった。
さらに遺品から出てきた勤務実態を残した「新証拠」
ほかにスマホで確認できたのは、遥樹さんが店の関係者と交わしていた膨大なLINEだった。そこには病院でA氏が語っていた失恋相手と思われる、店の関係者B子さんとのやりとりも確認できた。 だが、母は何よりも暴行動画にショックを受けた。こんな職場環境で息子は働かされていたのか。周囲との人間関係がおかしくなっていったのは、職場環境が遥樹を追い詰めつめたからなのではないかと疑いを持ったのである。 葬儀を終えて2カ月が経った21年1月、母はさらに疑念を強める証拠に行きあたった。それは遥樹さんのスマホに入っていたあるアプリだった。 アプリは店内の防犯カメラが映したものを店外でもリアルタイムに確認できるもので、3カ月分遡って録画が見られる仕様になっていたことに気づいた。 それから母は、その時点で遡れた10月始めから亡くなった前日の11月15日まで、遥樹さんが店でどんな様子で勤務していたのか確認していった。すると、「過重労働の実態が浮かび上がった」と言うのである。 「定時は午後3時から深夜0時までだったのですが、毎日のように1~2時間くらいは残業し、時には深夜4時5時くらいまで店に残って働いていました。休みの日もレジ締めのために必ず出勤していました」 弁護士のアドバイスを受けながら、スマホアプリの録画映像で確認できた遥樹さんの時間外労働を集計したところ、10月2日から31日までの時間外労働は101時間21分に及んだ。これを受け、母はパワハラのみならず過重労働も重なり、遥樹さんは精神を病んでいったに違いないと考えたのである。