「とりあえず早く車出せ!」「チンタラ走ってんな」タクシードライバーを苦しめる「カスハラ客」へ業界が始めた「対策」
「お客様は神様です」という言葉に振り回されてきたサービス業界。これまでは理不尽な要求をする客に対して、企業や従業員が泣き寝入りすることが多かった。今、この言葉の意味を改めて考え直す時期にきている。 【写真】現役タクシードライバーが明かす「カスハラ客」に遭遇しやすい「意外な場所」 国や東京都が「カスハラ(カスタマーハラスメント)」などの迷惑客に対して本格的な対応を進めようとする中、乗客の理不尽な要求に頭を悩ませていたタクシードライバーたちにも、業界が重い腰をあげ対応方針を示した。「カスハラ客」からタクシードライバーを守ることはできるのかーー。
理不尽な要求に振り回されるドライバー
夕闇迫る忙しい時間帯に、タクシー配車アプリが鳴った。 迎車地に指定された場所は、人や車でごった返す繁華街近くのマンション。行き交う人からの迷惑そうな視線や、車のクラクションを受けながら乗客を待っていた。予約時間を10分過ぎた頃、40代くらいの男が何も言わずに不機嫌そうに乗ってきた。 「銀座まで速攻ね。絶対に19時までに着くように」 この場所から銀座までは到底間に合わない距離であった。ドライバーは、男に約束できないと伝えたが、男はその言葉を遮り、 「能書きいらねぇから、とりあえず早く車出せ!」 と高圧的な態度で出車を急かした。 ドライバーは、ひょっとしたら男が裏道を知っているかもしれないと目的地までのルートを確認するが、その言葉を無視して電話をかけ始めた。 タクシーを走らせている道中も、 「チンタラ走ってんな、もっと飛ばせ」 と制限速度を超えろと指示し、赤信号で停まると、 「何停まってんだよ。行けよ、ほら早くしろ!」 信号無視まで強要しだした。その言葉を無視して赤信号で停まると、乗客は運転席の後ろを蹴飛ばしてきた。結局、乗客が要求した時間には間に合わなかった。乗客はいきなり怒鳴り声をあげ、 「大事な商談だったんだ。損害賠償もんだぞ、覚悟しとけ!」 とのセリフを吐き、乗務員証の写真を撮って降りて行った。 このような乗客(利用者)の理不尽な要求は、タクシードライバーだけが受けているのではない。接客を伴うサービス業界全般に起こり、SNS等で問題となり、事態は深刻化している。 顧客による理不尽な注文やクレームなどのカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が社会問題化する中、厚生労働省は労働施策総合推進法を改正し、従業員を守る対策を企業に義務づける検討に入った。東京都もカスハラ防止条例の今年秋の都議会での成立を目指す。 国や東京都だけではない。JR東日本などの大企業も、カスハラ客に対して毅然と対応する方針を大々的に示した。社会全体がカスハラ事案に毅然とした対応をしようと乗り出している。 タクシー車内は、乗客とタクシードライバーだけの密な空間であるため、特にカスハラが発生しやすい状況である。タクシー業界もカスハラ客に対して重い腰をあげだした。