先生もPTA活動の利益を受けている…高校教諭のPTA会費返還請求を棄却した裁判所 その判断に識者は「違和感」を抱く
同意していないのにPTA会費を給与から引き去られていた-。鹿児島市内の県立高校に勤務する教諭が校長とPTAを相手取り、6年分の会費に相当する1万6560円の返還を求めた訴訟で、鹿児島簡裁は教諭の請求を棄却した。 【写真】同志社大学政策学部の太田肇教授
判決で裁判官は、学校要覧には職員校務分掌の中にPTA係があり、PTA会則も規定されていることなどを挙げ「事前かつ個別にPTA会費の振替決済の同意を取るべき義務があるとまではいえない」と判断。また、教諭が会員であった間は「PTA活動の利益を享受している」と指摘し、教諭が訴えた不当利得返還請求を認めていない。 PTAの在り方に一石を投じる今回の裁判から、組織論を研究する同志社大学政策学部の太田肇教授に現状と課題を聞いた。 PTAは学校の一部であり、教員が、その一員であることが当然のように見られてきた。今回の判決そのものは筋が通っているが、現状を肯定し過ぎているのではないか。任意団体であるにもかかわらず、教員の加入を前提にしていることに違和感を覚えた。 PTA活動は学校行事の中に組み込まれ、教員も何らかの役割を果たしてきたはずなのに、「活動の利益を受けている」という判決理由は矛盾していないだろうか。会員になることで保護者と意思疎通が図りやすくなったり、学校が運営しやすくなったりすることが利益だとしたら、会費を払ってまで受け取るものではない。
組織のあり方を問い直すような判決が出ても良かった。全国的に見て、PTAは町内会と並び、最も改革が遅れている組織の一つだといえる。業務に負担を感じても、限られた構成員の中で、1~2年で役員が交代するため、議論が進まなかったことなどが一因と考えられる。 PTAを主に担ってきた専業主婦層が減り、加入率が低下している。今回の裁判で改革の議論を終わらせず、国民全体で問題を考える時期に来ているのではないか。 PTAが学校から距離を置き、独立した団体であることをはっきりさせるべきだ。行事などで協力を得てきた学校にとっては不便だろうが、結果として、それがPTA離れを招いた。「子どもたちのために学校と保護者が話し合う場」という原点に立ち返り、自発的に参加したくなる組織へ変えていかなければならない。 ■PTA ペアレント(親)、ティーチャー(教員)、アソシエーション(組織)の略。1946年、終戦後の民主化のために派遣された米国教育使節団が、父母と教員が協力して団体活動を行うことを勧める報告書を発表し、文部省(現文部科学省)の指導で全国各地につくられた。学校の後援組織ではなく、保護者が学校と連携して子どものために活動する社会教育団体との位置付けになっている。52年に全国組織「日本PTA」が発足し、後に公益社団法人「日本PTA全国協議会」に改編された。
南日本新聞 | 鹿児島