アメリカ大統領選でAIの脅威、選挙関連の偽情報規制は4割の20州のみ…読売新聞調査
【ワシントン=冨山優介】5日に大統領選の投開票が控える米国の50州と首都ワシントンのうち、生成AI(人工知能)などで作成した選挙関連の偽情報を取り締まる法律を制定したのは20州にとどまることが、読売新聞の調査で明らかになった。全米を対象にした連邦政府の規制は導入されておらず、多くの地域ではAIを用いた偽情報への歯止めがないまま、大統領選を迎える。 【写真】マスク氏が投稿した「赤い制服姿のハリス氏」に見える女性
各州の立法データベースや議会事務局、議員への取材に基づき、対策法を制定した州を集計した。
州ごとに法律の詳細は異なるが、二つの類型に大別できる。一つは、AIによって動画や画像、音声を生成し、選挙関連の偽情報を流布することを違法とする一方、AIで生成したと明示すれば免責するケースだ。このうちミシガン州では明示しない場合、違反者に罰金や拘禁刑を科す罰則を定めている。
もう一つの類型は、AIで生成した選挙関連情報を流布する場合にAIを使ったと明示するよう義務付けるが、偽情報を禁じる規定がない。
20州のうち大半が今年、対策法を制定した。生成AIの普及で、「ディープフェイク」と呼ばれる精巧な偽画像や偽動画がSNSなどで急速に拡散したことが背景にある。1月にニューハンプシャー州の民主党予備選で、AIで作られたバイデン大統領の偽音声が有権者へ送られる問題が起き、危機感が広がった。
ユタ州は3月、選挙に絡む情報にAIを使ったと分かるように明示を義務付ける対策法を制定した。法案を提出した共和党のウェイン・ハーパー州上院議員は取材に対し、「選挙の透明性確保のため、有権者は画像などが(AIで)修正されたものかどうかを知る必要がある」と説明した。
ただ、各州の法律では、AIで作成したと明示さえすれば違法にならない。発信者の特定も難しいため、偽情報の拡散は続いている。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが9月に発表した調査結果によると、米国成人の8割が大統領選で偽情報の生成と拡散にAIが悪用されると懸念している。連邦政府の規制を求める声も強く、検討が続いていたが、大統領選には間に合わなかった。