人気漫画家・をのひなお、最新作は現代版サスペンス「結局『明日カノ』じゃん!とは思われたくなかった」
――をの先生の絵といえば、緻密で繊細な描き込みも特徴ですね。漫画的でもありつつ、リアルを感じさせると言いますか…。 をの:『DEATH NOTE』と『バクマン』に高校生の時めちゃくちゃハマりました。作画の小畑健先生は、アナログで描き込みが凄いじゃないですか。一生懸命模写をしていました。小畑先生の絵になりたいと思っていました。あと、『DEATH NOTE』は「少年ジャンプ」の漫画なのに、バンバン人が死んでいくのが良かったですね(笑)。 ――『DEATH NOTE』のダークな作風がお好きだったのでしょうか。 をの:人が死ぬのは一番すごい出来事で一番強い感情が生まれますよね。『進撃の巨人』も好きな作品の一つなんですが、「いつキャラが死んでしまうんだろう」という気持ちで胃を痛めながら読んでいました。 ■キャラは眉毛から描く ――キャラを描くときは、どこから描くのですか。 をの:眉毛から描きます。その後に目を描き、鼻を描いて、口、輪郭、髪の毛の順に描いていきます。私は眉毛が1mmずれたり、眉間に線が1本入るだけでも表情が変わると思っているので、眉毛には特に時間を割いて何度も修正しますね。 ――をの先生の絵はとにかく目力が強いと思います。目で感情を訴えていると思いましたが、今のお話を聞くと、眉毛でも芝居をしているのだなと感じました。 をの:眉毛は本当に重要だと思います。ちょっと角度を変えるだけで、悲しいのか、怒っているのか、変わりますよね。眉毛は一発で決まらないことが多く、微調整を繰り返します。 ――そういったこだわりが、繊細な感情表現を生んでいる源だと思いました。をの先生の作品は特に女性の喜怒哀楽、さらに滲み出る内面の表現が魅力ですからね。 をの:いやいや、何度も直すのはただ絵が下手なだけだと思います…。でも、読者さんが『パーフェクト グリッター』のキャラを、かわいい、凄く好きな女の子と言ってくださったのはうれしかったですね。できるだけそう思い続けてもらいたいと思っているので、ますます作画を頑張らなきゃなと考えています。 ■『明日カノ』を読み返したら「思っていたより上手くない?(笑)」 ――アシスタントなど、制作体制はどうなっていますか。 をの:『明日カノ』が始まったころは、基本的に1人のアシスタントさんにお願いしていましたが、連載終了前の1年は忙しくなったので、もう1人増やして細かい作業を頼みました。『パーフェクト グリッター』は初めから2人体制でやりたいと思っていますが、仕事をどう割り振ればいいのか、悩んでいます。 ――リアルな背景も、をの先生の漫画に欠かせない要素です。『明日カノ』では歌舞伎町などの町の生々しさが良く出ていました。 をの:背景はアシスタントさんが本当に優秀なんです。読者さんにも背景を褒めていただきましたが、アシスタントさんのおかげです。『明日カノ』の初期から同じ方が担当しています。 ――背景以外はをの先生がご自身で描かれるのですか。 をの:キャラはそうですし、トーンの影入れも自分でやっています。私はこだわりが強いのかな。一度、アシスタントさんに人物の影などを任せたときは、凄く上手に仕上げていただいたのですが、申し訳ないと思いながら手を加えてしまいましたね。 ――とことん最後までクオリティを追求されるのですね。 をの:私は自分の絵にそんなに自信がなかったんです。『明日カノ』も描いている最中も、自信がなさすぎて、ダメだダメだと言いながら納品していました。ただ、先日久しぶりに『明日カノ』を読み返したら思ったよりも描けていて、「あれ、私、絵、思っていたより上手くない?」とびっくりしましたよ(笑)。週刊連載のスケジュール感なので絵の崩れもあるのですが、自分の記憶より良く描けているなと思い、自信につながりました。 ■ファッションにキャラの個性を投影 ――をの先生の漫画は、キャラのイメージを投影しているファッションも見どころだと思います。服はファッション誌などを参考にするのですか。 をの:私が今日着ている服は「109」で買ったのですが、イチカが着ていてもおかしくないかなと思って選んでみました(笑)。ちょうど作画しているので、イチカの服の参考にしようと思っています。現物があると作画見本になりますし、描きやすいですよね。 ――『明日カノ』のときも、実際に購入した服を参考にしたことはありますか。 をの:留奈の服を考えるときは、資料のために買い物をしたことはありました。基本はネットで検索して、このキャラだったらこういうブランドのこういう服を着せてみようと考えます。自分の趣味と合うキャラがいたら、自分が持っている服を参考にしたこともありますね。 ――お話を聞いていると、をの先生はファッションに精通しておられる印象を受けます。 をの:いえ、自分自身は服にそこまで頓着はないタイプだと思いますし、そんなに詳しいわけではないです。服というか、かわいい女の子がどんな服を着ているんだろうと気にしています。あと、私がわからない系統は担当さんに聞いたりしますね。『明日カノ』の萌のエスニック系の服は、高円寺にあると担当さんが教えてくれました。 ■「メディアミックス、したいですね(笑)」 ――をの先生のペンネームもインパクトが強いですよね。名前の由来は。 をの:友達が“ひなお”というハンドルネームを考えてくれて、それからずっと“ひなお”だったのですが、『明日カノ』でデビューするときに“ひなお”だけだとわかりにくいので苗字をつけました。“お”ではなく“を”にしたのは、そのほうがネットの姓名判断で大吉になる画数だったから。願掛けのつもりですね。 ――プライベートの過ごし方や気分転換の手法なども伺いたいです。 をの:空き時間に散歩をします。人がいっぱいいるところを散歩していると、いろんな人がいて楽しいし、気が紛れるんです。旅行も好きですね。最近、秘湯を巡ろうと思っていて、「日本秘湯を守る会」に加盟している温泉に2ヶ所くらい行きました。少しずつ攻めていって、すべての温泉を巡りたいです。 ――秘湯は私も好きですが、かなり気持ちが安らぐと思います。しかしながら、漫画を描いていると、この風景は使えそうだなとか、日々がインプットの時間になってしまうのではないですか。 をの:そうですね。結構、日常で見聞きしたことは、なんでも漫画に活かせるかなと考えてしまいます。外を歩いているだけで、いろんな刺激や情報が入ってきますから。気持ち的には、散歩した先でリフレッシュしているときに新たなアイディアが浮かぶこともあります。リフレッシュついでに、新しい刺激を得てくる感じでしょうか。 ――長時間にわたり、インタビューさせていただきありがとうございました。私も読者として、『パーフェクト グリッター』、とても楽しみにしています。最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。 をの:とにかく、『明日カノ』とは違ったジャンルに挑戦しようと思っているので、読んでもらえたら嬉しいなという気持ちです。私も頑張ります。 ――メディアミックスも楽しみです。 をの:メディアミックス……したいですね(笑)。なんでもしたいです。アニメでもドラマでも映画でも、なんでも受け入れる気持ち、お願いしたい気持ちです。よろしくお願いします。
山内貴範