人気漫画家・をのひなお、最新作は現代版サスペンス「結局『明日カノ』じゃん!とは思われたくなかった」
――そうして生まれたのが、サスペンス要素の入った『パーフェクト グリッター』なのですね。モモもきっと読者の共感を集めそうなキャラですが、魅力的なキャラを生み出す秘訣はあるのですか。 をの:漫画家になる前に、様々な仕事を転々としてきたことが役立っています。これまでに出会った人が話していたことや、過去の経験だったり、担当さんの引き出しだったりを参考にすることが多いですね。あと、私の感覚では、今どきはモモみたいに自分にコンプレックスを抱く子が多いと思うんですよ。 ――実は、私がよく行く近所のショッピングモールのフードコートにも、モモのようにフードコートで配信している女子がいたんです(笑)。 をの:えっ、本当ですか! 描いているときに、いるかな、こういう子…と思って描いたのですが、やはりいるんですね。私は19歳の頃まで地方にいたのですが、もし東京に住んでいて、今みたいに気軽に動画を配信できる環境があったら、モモみたいな高校生になっていたかもしれません。 ■辛いシーンのほうが筆が乗る場合も ――をの先生も、モモのようにコンプレックスを抱えていた時期があったのですか。 をの:そうですね。いまだに、モモみたいに周りのみんなばかり良く見えて、自分はどうして1人なんだろう…と感じることは全然ありますよ。 ――孤独なモモですが、メイクをして、服を着て、喜んでいるときの感情表現がたまらなく良いですね。 をの:私は地元にいたとき、マンガやアニメのコスプレをしていたこともあって、あのモモの感情は、私がコスプレ衣装を着た時に味わった感覚と近いかもしれない。楽しくて舞い上がったし、イベントに参加して写真を撮ることもありました。今も同じことをしたら、歳甲斐もなく舞い上がってしまうかもしれません(笑)。 ――ご自身の感情も投影されているわけですね。 をの:誰しもが同じような内面を持っているのかな、と思います。『明日カノ』のときも、「わかる~!」と言って、キャラに共感してくれる人が多かったですから。 ――今後、物語が進むにつれてモモやイチカが大変な境遇に陥るのではないかと予想されます。ご自身が生み出したキャラにしんどい思いをさせるのは、躊躇しませんか。 をの:実は、ためらいはまったくないんですよ(笑)。『明日カノ』のときも、このキャラだったらこういうシーンで何を思うんだろうと考え過ぎて気が滅入ったことはあるのですが、辛いシーンを描いていて、私自身がしんどくなったことはないですね。むしろ、楽しいとか、明るいみたいな希望に満ち溢れるシーンよりも、辛かったり、嫌な気持ちを吐露するシーンのほうが筆が乗ります。 ■緻密な絵柄はあの漫画家の影響? ――ここからは、をの先生の作風の謎に迫りたいと思います。もとは百合系の同人誌を執筆して「コミティア」などに参加されていたそうですね。2018年に初参加のコミティアで現在でもタッグを組んでいる編集者の方と出会い、2019年に『明日カノ』でデビューされていますね。それまでに影響を受けた漫画や、漫画家などはいらっしゃいますか。 をの:小学生の頃は『ONE PIECE』が好きで、『幽☆遊☆白書』、『レベルE』、『HUNTER×HUNTER』も読んでいました。その頃から絵も描いていたのですが、好きな漫画を模写しようとしても、全然似ないのが悩みでした。友達にはすごく上手に模写ができる子がいたのですが、私は手癖で描いてしまうのか、まったく似てなくて…。その手癖が出る絵柄はどこから……なのかと聞かれても、わからないですね。 ――少年漫画がお好きだったのですね。 をの:もちろん少女漫画も読んでいました。宮坂香帆先生や青木琴美先生の漫画が好きでした。ただ、高校生くらいからは少年漫画が多くなっていったと思います。