【特集】津山城をどう活かす 歴史と文化を紡ぎ 地域の希望そのものに/岡山・津山市
崩壊した600個以上の石垣は、3D測量によって形状や位置を詳細に記録し、復元作業は過去の写真を参考に一つ一つ積み直すという膨大な工程を必要とする。現在も国との協議や調査を行っているが、この長期的な復旧作業には地域住民や観光客の理解が不可欠である。
全国に目をやると2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城では、復元に約20年を要する壮大なプロジェクトに取り組んでいる。通常であれば「工事中」として観光客を遠ざけかねない状況を、熊本市では、復元過程そのものを観光資源として活用するユニークな取り組みを行っている。
観光客は「復興見学ルート」を通じて、修復中の石垣や天守閣を間近で見ることができる。このコースでは、復元に関わる職人たちの技術や工事の裏側に触れることができる仕組み。専用の足場からは、普段は見ることのできない角度で城を眺められ、復元の過程を肌で感じられる貴重な体験が提供されている。
歴史を守るだけでなく、それを地域の未来に活かす創意工夫が求められている。
また、熊本城ミュージアムでは復元の進捗を定期的に展示し、石垣修復に使われる伝統的な技法や最新技術についても学べる。訪れるたびに新たな発見があり、「震災で失われたものが少しずつ戻っていく様子を見て、熊本の復興を応援したいと思った」という声もあるという。
復元作業が観光と地域復興の両面で意義を持つ形は、全国的にも注目されるモデルケースとなっており、復元完了までの20年、熊本城は日本の歴史と技術を未来につなぐ「動く遺産」として、その価値を高め続けている。
津山城の長柄櫓(ながえやぐら)石垣復旧は、全国の文化財活用にも共通する課題を映し出す。歴史的に忠実な再現と現代の安全基準の両立には高度な専門技術が求められる。津山市の歴史まちづくり室室長で、文化財石垣保存技術協議会技術・研究会会員でもある平岡正宏氏は「石垣の保存や整備には行政や文化財修復コンサルタント、石垣工事を行う技能者が互いに知見を共有し、取り組んでいくことが鍵となります。今回の石垣の崩落について、早く復旧してほしいと歯がゆく思われる方もおられると思いますが、一つ一つの手順を間違えないように着実に前進させなければなりません」と話し、「復旧には5年以上かかる見込みです。今、現場は立ち入り禁止で、遠くからしか見ることができない状況です。ただ、この復旧の過程は石垣の構造に触れることができる絶好の機会ともとれます。このつらい状況を逆手にとった熊本城のような取り組みが実現できればと考えることがあります」とし、逆境に挫けない活用を模索する必要性を訴える。