齋藤飛鳥「【推しの子】」も話題 “圧倒的なアイドル性”とのギャップで見せる“陰”の演技 「ライオンの隠れ家」「マイホームヒーロー」でも発揮していた役者力
卒業して俳優に転身する乃木坂46OGは少なくないが、2024年に俳優としての存在感を大いに増したのは齋藤飛鳥だろう。原作人気がすさまじく、実写化発表の際にも大きな注目を集めた「【推しの子】」ではPrimeVideoで11月から配信が始まったドラマ版と、12月20日に公開された映画版で伝説的なアイドル・アイ役を務めた。一度は辞退しながらも原作さながらに目に光を宿らせて好演し、劇場版も公開初日からさまざまな声がSNSに寄せられるなど、話題をさらっている。12月20日に最終回を迎えた「ライオンの隠れ家」(TBS系)でも主人公の同僚として存在感を発揮し、その他にもドラマ・映画で癖のある人物を演じてきた齋藤。乃木坂46を卒業してからおよそ1年半、彼女の役者としての力に迫ってみたい。 【写真】“伝説のアイドル”役にも抜群の説得力…!齋藤飛鳥の小顔が際立つ全身ショット ■レアなショートボブ姿で見事な“浅草氏”に 乃木坂46時代から演技の経験を重ねていた齋藤にとって大きな経験になったのが、2020年に映画化とドラマ化がなされた「映像研には手を出すな!」だ。映像研こと映像研究会を立ち上げた高校生3人組がアニメ制作にのめりこむ、大童澄瞳の同名漫画を実写化。同作で演じた浅草みどり(通称:浅草氏)は好奇心旺盛な変わり者ながら極度の人見知り、アニメが大好きという高校生。いつも迷彩模様の帽子とリュックがトレードマークの彼女を演じるべく、アイドル時代めったにロングヘアを切らなかった齋藤はショートボブにし、原作漫画同様の百面相を見せていった。 浅草とトリプル主人公になる同級生の水崎ツバメと金森さやかは、それぞれ乃木坂46の山下美月(※2024年卒業)と現キャプテン・梅澤美波が扮(ふん)した。変わり者の浅草、お嬢様キャラの水崎、現実主義者の金森と3人の個性がくっきり際立っていて、かつ原作の世界観通りに齋藤の浅草が江戸弁でまくし立てたりする。彼女たちの通う高校が「芝浜高校」なのだが、校名が示すように落語のようにテンポのよい芝居が続いていって、くるくると変わる齋藤の表情や目力が見ていて飽きない。 2023年に乃木坂46を卒業すると、同年秋からは、TBS系で放送されたドラマ版を皮切りに「マイホームヒーロー」(ディズニープラスのスターで配信中)での事実上のヒロイン役で存在感を示す。同作は平凡なサラリーマンの鳥栖哲雄(佐々木蔵之介)が、齋藤演じる娘の零花を守るべく、正体を娘に知られないまま闇社会の組織と戦っていくピカレスク・ドラマだ。 ■圧倒的なアイドル性…“いるだけでヒロイン感” 齋藤は零花を、はじめは年齢相応に反抗期なところもありながら、父親にとって守りたくてたまらない娘として演じていく。第1話の哲雄の回想の中で、零花は誕生日プレゼントとして、父のために自作の曲でピアノを弾いてみせた。このシーンでのツンデレぶりは、アイドルだった齋藤ならではの愛嬌(あいきょう)のなせる業だろう。佐々木ら男性陣が醸し出すハードボイルド風味の中で、いるだけでヒロイン感を出している。 舞台を7年後に移した映画版では、零花はなんと刑事になっている。表情もキリっと引き締まり、ボクシングで体を鍛えていて「犯罪者はどんな理由があっても、私は絶対に許さない」と(犯罪者である)父親の前で口にする正義感の強さ。その真面目さゆえに捜査の過程で父が犯した罪に近づいていく。まだ何も知らない時に家族に見せる無邪気な表情から、真相に近づいてシリアスな刑事の顔になるまでの切り替えもナチュラルで、わざとらしさが全くない。 10月期ドラマ「ライオンの隠れ家」では市役所で働く主人公・小森洸人(柳楽優弥)の後輩職員である牧村美央役で出演。物語が進むにつれ、真面目な働きぶりの彼女の裏の暗い過去や、洸人たちが巻き込まれていくある事件に関わっていることも明らかになっていく。「マイホームヒーロー」でもそうだが、明るいシーンでは彼女の気さくな笑顔が映えるからこそ、暗い“陰”の演技もより深みが増す。 ■「【推しの子】」で伝説のアイドルを体現 そして「【推しの子】」劇中の、アイドルグループ「B小町」の不動のエース・アイ役だ。漫画、アニメが共にヒットし、コスプレーヤーや現役アイドル、元アイドルもコスプレを試みた完璧で究極のアイドルキャラクター。しかもこういった実写化には何かとネガティブな前評判が原作のファンからつきまとう。そこに白羽の矢が立ったのが齋藤となれば、単にネームバリューだけで選ばれたのか?とも思われかねない。 一度は辞退した彼女が何を考えたか。11月に行われたワールドプレミアではその心境を「実写化するにあたって何を描きたいかっていうお話を具体的に頂いた時に、それが狙いなら私でも、もしかしたらアイを演じられるかもしれないなと。スタッフさんの熱意を受け取らせていただいて、ちょっと頑張ってみようかなと受けさせていただきました」と語った。 そして「私は約12年ぐらいアイドルをやらせていただいて、それを卒業してからのこれだったので、相当の覚悟が必要でした。でも自分のファンの人がもう2度とアイドル姿の私を見られないと思っていたのに見られるっていう、そういうので楽しんでいただけたらいいかなと」と遊び心と意欲を見せた。アイを実写で演じるからには、いわゆる“ガワ”を寄せるだけでなく乃木坂46で12年間味わってきた苦楽もぶつけたい。それでこそ、芸能界の光も闇も描いたこの作品に自分が出演する意義がある、という決意表明でもあった。 ■キラキラしたアイドルに振り切った姿が見られるレア感も B小町のライブシーンは地下アイドル的なライブ感があって、優雅なフォーメーションダンスが見どころだった乃木坂46のライブとも一味違う。むしろ乃木坂時代よりもキラキラしたアイドルに振り切った齋藤が見られるし、オフの場面では慈愛ある母の顔や、等身大のアイドルらしい笑顔にもなる。他のアイドルキャラクターと違って負の感情を全く見せないところは、死後に半ば神格化されるにふさわしい。確かに今このタイミングの齋藤でなければできなかったアイドル像だと、うなずいてしまう。 他にも、乃木坂46時代に初めてヒロイン役を務めた青春ラブストーリー映画「あの頃、君を追いかけた」(2018年)での早瀬真愛、ドラマ「いちばん好きな花」(2023年、フジテレビ系)での姉の潮ゆくえ(多部未華子)と二人暮らしをするこのみ役など、主役、脇役を問わず活躍してきた。 これだけ多くの役柄をモノにしてきた彼女は確かに、世の求めるままにどんなキャラクターにもなりきれるアイドル性を持っているのかもしれない。そんな変幻自在の役者ぶりを、 ◆文=大宮高史