「ゴロ寝でドラマの見逃し視聴」がTV局のドル箱…フジテレビが足向けて寝られない"古くて新しい芸能事務所"
■見逃し再生の可能性 ここ数年、視聴率の下落が続いている。 並行してテレビ広告費の減少も顕著だが、逆に見逃し視聴に伴うネット広告費は伸びている。2021年度を基準にすると、統計を公表している日テレ・TBS・フジ3局の合計は、22年度に約1.2倍、23年度は約1.7倍と順調に伸びている。 中でも、「海のはじまり」などを手がけたフジは好調だ。 22年度1.3倍、23年度2.1倍と伸びは3局の中で最も大きい。見逃し配信は通常放送後1週間行われる。ところが同局は初回から3話までを、4話放送まで視聴可能としている。バズが起こりやすい内容や演出に加え、ネット配信に注力した戦略が功を奏している。 ネット広告費はまだまだ伸びる余地がある。 ネット配信なので視聴者は自分の都合にあわせて見られる。中には週末や寝る前に、スマホやタブレットでゆったり見る人も少なくない。リビングの大型テレビで、家族と一緒に楽しむケースもある。いずれにしても、放送の時より内容への集中度が高くなっている。 これが広告費を押し上げる可能性につながる。 ネット経由なので、どんな人がどんな状況で見ているかが把握しやすく、結果としてドラマの内容や視聴者の気分に合わせたCMを配信でき、広告単価を押し上げる可能性も残す。 しかも見逃しで配信されるCMの数はまだ限られているが、今後は数も増えていくだろう。各局はテレビでの週1放送で制作費を回収し、ネット配信で利益を積み上げるところも出てきている。 ■「わたしの宝物」に可能性 秋クールでも、フジが気を吐いている。 初回をみる限り、「わたしの宝物」のバズは他と比べて断トツで、夏クールの「海のはじまり」をも上回っている。 要因は、内容とキャスティングにある。 「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(2014年・上戸彩主演)、「あなたがしてくれなくても」(23年・奈緒)を担当したプロデューサーの3作目。不倫、セックスレスに続いて“托卵”をテーマとした。 托卵とは、鳥類や魚類などの動物の習性のひとつで、自分の卵への世話を他の動物に托すこと。ドラマでは、夫以外の男性との子供を、夫との子と偽って産んで育てるストーリーになっている。“大切な宝物”を守るために悪女になると決意した女性、その夫、そして彼女が愛した彼の3人のもつれあう感情を、SNSで投稿しながら見逃し再生でじっくり見る人が続出となるだろう。 心憎いのは、主人公の相手役に深澤辰哉を配していることだ。 「海のはじまり」の目黒蓮と同じSnow Manのメンバーで、初回のバズを見る限り“推し勢”が激しく反応しているようだ。結果として見逃し視聴も、333万回と他を大きくリードした。 以上のようにドラマは新たな“勝利の方程式”ができつつある。 深夜ドラマは不倫や復讐など、極端にドロドロした物語に走り勝ちだが、GP帯ドラマ(19~21時放送)は、目を引く設定と同時に登場人物の「心情」が鍵を握る。若い視聴者の心を揺さぶる演出になっているのだ。 これが大量のバズを生み、見逃し再生につながって、テレビ局はネット広告費を稼いでいく。制作側の緻密な計算と演出。視聴率というマスをとる従来の競争や収益構造から、特定層に深く刺さる勝負へとテレビドラマは新たな扉を開け始めた。 ---------- 鈴木 祐司(すずき・ゆうじ) 次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。 ----------
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司