是枝裕和監督が向田邦子の代表作「阿修羅のごとく」リメイク…「最初は一字一句変えずやろうと思った」けれど【前編】
オリジナル版は、NHK土曜ドラマとして、79年にまず1~3話、80年に4~7話が放送された。四姉妹を演じたのは、加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン。和田勉らが演出した。
2003年には森田芳光監督により映画化され、大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子が四姉妹役に。舞台化もされていて、2022年の木野花演出版では、小泉今日子、小林聡美、安藤玉恵、夏帆が四姉妹を演じた。
もう一回、ちゃんと向き合ってみたい
是枝は5年ほど前、仲間とともにつくる制作者集団「分福」の演出ワークショップの課題として、同作の一部分を使った。
「若手の人に何を演出させようかと思って、それで『阿修羅のごとく』をやりました。僕が選んで」と是枝。選んだ理由については、「もう一回、ちゃんと向田邦子に向き合ってみたいなって」と話す。「ホームドラマにこだわっていたわけではないんだけれど、あれが何だったのか、やっぱりちょっと自分の中で消化しようと思ったんだよね、きっと」
そのワークショップのことが今回のNetflix版を企画したプロデューサーの八木康夫の耳に入った。「それで八木さんから依頼が来た、という流れ。それはもう、やらざるを得まいって」
依頼が来た時点で、八木のキャスティングにより、四姉妹役は、宮沢、尾野、蒼井、広瀬に決まっていたという。ほかの役は、八木と是枝が「一緒に」選んだ。終盤に登場する中島歩などは「(分福での)ワークショップに来てくれて、それで今回のキャスティングにつながっているという感じです」とも言う。
「海街diary」「若草物語」、そして小津的世界観
姉妹をめぐる物語といえば、是枝は、吉田秋生原作の映画「海街diary」(2015年)を監督している。著書『映画を撮りながら考えたこと』(ミシマ社)では、同作を撮る時に参考にした二つのこととして、何度も映画化されている「若草物語」の四姉妹の構図と、小津安二郎の世界観を挙げている。
「阿修羅のごとく」脚色にあたっては、「若草物語」を再解釈して映画化した「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2020年、グレタ・ガーウィグ監督)が参考になったと、報道用資料の中で明かしている。また、今回のインタビューでは、改めて向田原作を読み込んで、小津的世界観を見いだしたとも語っている。何かが、つながっている――。