「キツネとタヌキのばかし合い」年収の壁の協議 自公が欲しいのは議席だけ 国民民主は参院選まで要求実現しない方が得策か
【八木秀次 突破する日本】 自公連立政権は10月の衆院選の結果、衆院では過半数に満たない少数与党に転落した。与党だけでは予算案も法案も成立させることができない。野党が一致すれば内閣不信任案も可決できる。 【表でみる】控除額を178万円に引き上げた場合の年収別減税額 議席数を大幅に伸ばした国民民主党に連立政権入りや部分連合を期待したが乗ってこない。国民民主党は3党協議の常設機関を設けることに反対し、個別の事案ごとに3党で協議することにした。与党と野党との間でキャスチングボートを握って自らを高く売ろうということだ。 国民民主党が衆院選で訴え、議席増に寄与した所得税の非課税枠の「年収103万円の壁」の撤廃について、同党は178万円に引き上げることを主張した。3党の幹事長でそれを「目指す」と合意したが、3党の税制調査会長の協議では決裂した。自公が示したのは123万円への引き上げだったからだ。 178万円への引き上げでは、国・地方の税収が7兆~8兆円も減る。123万円でも税収減は6000億~7000億円に上る。自公としてはギリギリの線だったろう。20日に決定した2025年度与党税制改正大綱には、国民民主党との折り合いが付かないまま、123万円への引き上げが盛り込まれた。それでも同日の3党幹事長会談では今後も協議の継続を確認した。 いわば、キツネとタヌキのばかし合いだ。 国民民主党は与党としての責任を負わない立場で自らの主張を通せる今のポジションの価値を分かっている。完全に野党の立場になって政権と対峙(たいじ)しても埋没するだけで存在感は示せない。 いろいろ政権に高い要求をしながら、時に協議が決裂しても、最後は落としどころで予算案や法案にも賛成するはずだ。臨時国会での補正予算案にも賛成した。来年の通常国会でも最終は予算案に賛成するだろう。 それでも来年7月の参院選を見据えて123万円のさらなる引き上げを政権に強く要求していくはずだ。国民民主党の存在理由だからだ。実現しなくても参院選で「もっと力を与えて」と訴えることができる。いや、参院選までに実現しない方が得策だろう。 自公側も、そのことをよく分かっている。付かず離れず、国民民主党の主張を聞いたふりをしながら、換骨奪胎する。欲しいのは議席の「数」だからだ。自公は日本維新の会にも目配りし、25年度予算大綱案に「教育無償化」の文言を入れた。国民民主党を牽制(けんせい)し、あわよくば維新を政権に引き込むためだ。新たにムジナが加わるのか。