進まないAIの普及、それでも「AIバブル説」が誤っている理由
現在は全体的に、「AI(人工知能)はバブルにすぎない」という言説が大きくなりつつあるようだ。これは、「ハイパー・スケーラー(巨大なクラウドやデータセンターを運営する事業者)に出荷されるエヌビディアのGPUを除けば、AIに対する実需要はほぼ存在しない」という認識に根ざしたものだ。 メタや、アルファベット傘下のグーグル、アマゾン、テスラといった大企業がこぞって、AIインフラに1000億ドル(約14兆6000億円)以上の設備投資を行なっている(これは、「セルイン」と呼ばれる、メーカーから卸や販売店に商品が納入される方向だ)。その一方で、顧客がAIをどう活用するのかという側面(こちらは「セルアウト」と呼ばれる、卸や販売店から、実際のユーザーに商品が渡る方向)については明確なビジョンが存在しないというのは、一見したところ、馬鹿げた話のようにも思える。 しかしながら、セコイア・キャピタルやゴールドマン・サックスなどの企業に所属し、ベンチャーキャピタルや金融サービスの業務に従事する、非常に優秀な専門家たちが、少なくとも現時点では、AIはバブルだとの見解を示している。 ■AIバブルは存在するのか? この疑問への答えは、AI自体、そしてAIがさまざまな業界に与える影響を、どのような時間軸で判定するかによって異なってくる。 まずは、これまでの経緯を振り返ってみよう。AIのアルゴリズム自体は、40年近い歴史を持つ。さらにテック業界はこれまでも、機械学習やディープラーニング、ニューラルネットワークといったAI関連技術に多額の投資を行なってきており、少なくともここ10~15年については、投資の規模をさらに拡大させてきた。 2022年末に登場した生成AIは、AIに関する時間軸を一変させ、より先進的なAIの姿を垣間見させた。生成AIが作り出すコンテンツは、当初はテキストや画像のみだったが、その後は動画にも対応し、今では多様なタイプのアウトプットを実現している。こうした生成AIの機能は、汎用人工知能(AGI)の一端を見せるものだ。AGIは、人間に可能なすべての知的作業を担える人工知能であり、AI研究の究極の目標だと言う人もいれば、これが開発されれば世界の終わりだという人もいて、評価は分かれている。 GPU関連の投資は、2024年には1000億ドル(約14兆5000億円)を超えるペースで進んでおり、今後はさらに伸びると予測されている。現時点での市場の見方は、爆発的なGPUおよびXPU(主にインテルが使用している概念で、CPU、GPUなどのプロセッサの総称)のセルインが、テック業界以外の領域で、どのようにして価値の生成に結びつくのか、そのメカニズムを精査したいというものだ。 AIは、例えば銀行や病院、ホテル、メーカーの工場、運輸、小売などの業種で活用例が出始めている。だが、これに関しても弱気筋は、AIは大半が過剰にもてはやされているだけで、過去15年間のデータ最適化戦術からそれほどの進化はない、との見方をとる。顧客は、追加の費用を払ってまで、生成AIの機能を組み込んだSaaSサービスや、AI機能を持つPCやスマートフォンの新機種を買い求めることはないだろうというのだ。 だが、我々が収集し、分析したデータから導き出される結論は、こうした弱気筋の見方を覆すものだ。AIにまつわる複雑な状況において多くの人が見過ごしているのは、AIが今後、消化吸収されて実際に配備されるまでの時間軸、そして導入のタイミングが、業界によって異なるという点だ。導入の時期が異なれば、事業における多くの導入事例においては、価値を生むタイミングに開きが出てくる。 我々のデータではまた、数百万ドル規模の概念実証(PoC)に関して、2024年には数百%レベルの伸びが確認されている。また、金融サービス、医療、電気通信などの主要産業へのAI導入については、50~90%台の成長が見て取れる。これらの産業では、今後5年間、年率40%近くのCAGR(年平均成長率)が見込まれるという。物体の検知や、会話形式でのやり取りが可能なAIも、5年間のCAGRで35%以上の成長が予測されている。 これはすなわち、シリコンチップへの投資やインフラの構築が、ソフトウェアや各業界での活用事例へと転換していくのは、もはや必然であることを意味する。今のところこの流れは、水滴が落ちるほどの勢いしかない。だが、いったんダムが決壊すれば、巨大な滝のような流れとなるはずだ。