M-1審査員に大抜擢の「オードリー若林」が松本人志に代わる次世代のカリスマになれる理由
若林は、芸能人やテレビ局員は「向上心が高い人」「勝ってきた人」が多いから疲れる、という趣旨のことをたびたび語っている。芸能界で活躍するような人やマスコミの最前線にいる人は、明るく前向きな性格である場合が多い。若林は自分がどれだけ出世して上の立場になっても、そういうキラキラした文化圏にいる人々に対する違和感を失っていない。 でも、彼はそこで卑屈になるだけではなく、必死に食らいつき、抵抗して、戦っていく。そして、そんな自分の思考や行動を客観的に見る目線を保ったまま、その状況を笑いに変えながら突き進んでいく。『あちこちオードリー』(テレビ東京)では、そんな彼がゲストの芸人の気持ちに優しく寄り添い、本音を引き出していく。 ■若林に高い評価も 昨年末に放送された『令和ロマンの娯楽がたり』(テレビ朝日)という番組でも、令和ロマンの高比良くるまが若林のことを「ダウンタウン以降に価値観を変えたゲームチェンジャー」として高く評価していた。「5年後、天下を獲る芸人は誰?」という話題で、くるまは若林の名前を挙げていたのだ。 たしかに、ここ数年でお笑い界の勢力図も一変した感がある。どこまでも強く明るい「陽キャ」の芸人が天下を獲るという構図はなくなっていて、その代わりに有吉弘行のような、世の中を斜めから見る目線を持った芸人が支配的なポジションに立つケースが増えている。 2001~2010年の第一期『M-1』に出場していた世代の芸人の間では、松本人志は間違いなく絶対的なカリスマだった。しかし、2024年の『M-1』に出場する世代の芸人にとっては、必ずしも松本だけが絶対的な存在とは言えない。 むしろ、彼らが子どものころに見ていた『M-1』で世に出てきて、その後もテレビやラジオで息の長い活躍を続けている若林の方がダイレクトに憧れの存在であると思われているのではないか。 松本という軸がなくなっても、若林という新たな軸がある。次世代のカリスマが審査員席に座る今年の『M-1』も、例年通りの盛り上がりを見せることになるだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)
ラリー遠田